スキルド
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私を気にかけてくれた彼に敵対することを、私は恐れているのだろうか?
「いや……聞いてはいたさ。でも、俺には……何かの間違いだとしか思えなくて……」
彼は首を横に振り、答えた。
「間違いじゃないよ。私は兄さんと戦った」
「!?」
あっさり言った私の言葉に、彼は絶句した。
「う、嘘だろ……? どうして、そんなことに!?」
スキルドの驚く理由が、私にはよくわからなかった。
彼は私が兄に何をされてきたか、知っているはずだったのに。
「何が不思議なの? あなたは私が兄さんを憎む理由を、よく知っているはずじゃない?」
察しの悪いスキルドに受け答えしていると、最初にあった声の震えは収まっていた。
彼はこんなに物分かりの悪い人だったのか? 少し落胆する。
「お前がヴィレントを恨んでいるのはよく知ってるよ。けど、まさかそんな……。戦場でお前達が斬り合うことになるなんて、俺は……」
彼の顔には、信じられないという表情が浮かんでいた。それが嘘であってほしいと、願うように。
私はそれを、冷ややかな目で眺めた。
「やめよう、チェント! 兄妹が争うなんて馬鹿げている。今からでも遅くない! 戻ってこい!」
彼は両手を広げ、必死に訴えてきた。
あまりにも現実が見えていない。その言葉に、大きなため息が漏れた。
「スキルド。私はもうベスフルには戻れないんだよ。見て」
そう告げながら、すぐ後ろで血だまりに倒れている見張りの兵士達を振り返った。
今まで気づかなかったわけがないのに、まるで彼はそれに初めて気づいたかのように表情を凍り付かせた。
「私が1人でやったんだよ。他の戦場でもベスフルの兵士をたくさん斬った。だから、もう戻れないんだよ」
優しい声で、彼に教えてやった。
彼は両手で頭を抱えて首を振ると、今度は泣きそうな顔をして俯いた。
「……すまない」
彼は謝った。なぜここで彼が謝るのだろう? 彼がどういうつもりなのか、よくわからなかった。
「すまない、チェント。俺が……俺があの時、お前を助けられていれば……俺があの時もっと強ければ、こんなことにはならなかったのに……!」
ああそうか。ようやく合点がいった。
彼はベスフルで私がさらわれた時のことを、ずっと気に病んでいたのだろう。
そういえば彼は、私を助けようとした時に浅くはない怪我まで負っていたはずだったが、今の今まで私はすっかり忘れていた。
もしスキルドがあの時、私を助けられるほど強かったら。あの時、さらわれて魔王領まで連れてこられることがなかったら。
ネモとの出会いもなく、私はずっと兄に怯えて暮らし続けていたかもしれない
スキルドが弱かったから、おかげでネモに出会えた。
そういう意味では、彼に感謝してもいいのかもしれない。
そんな私
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