暁 〜小説投稿サイト〜
稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生
54話:団欒と陰謀
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宇宙歴780年 帝国歴471年 12月下旬
首都星オーディン ルントシュテット邸
ニクラウス・フォン・ルントシュテット

「では、父上、兄上、良いお年を」

ザイトリッツが一家の最後に地上車に乗り込み、リューデリッツ邸へ帰っていく。次男も三男もそれぞれ伯爵家に婿入りしたため、本来なら兄弟が揃うことなどほとんどない。ましてや伯爵家の当主ともなれば年末年始はかなり多忙になる。ただ、久しぶりにオーディンへ出てきた私たち夫婦の為にと、それぞれの子供たちをつれて、一堂に会する場を作ってくれた。10人の孫達に囲まれながらの晩餐は、心に来るものがあった。妻のカタリーナも隠してはいたが涙ぐんでいたように思う。

「父上、そろそろ屋内に参りましょう。お元気なのは存じておりますが、この寒さです。さすがにお身体に障りましょう」

爵位を継いだ長男のローベルトが心配げに声をかけてくる。まだまだ現役のつもりでいるが、心配される側になったかと思うと、嬉しくもあり寂しくもある。片意地を張る必要もないだろう、素直に屋内に戻り、もう少し一人で飲みたいことを伝えてから遊戯室へ向かう。
メイドに新しいアイスペールと水を頼んでから、定位置となっているリビングチェアのひとつに腰かける。先ほどまでの賑やかさが嘘のように静かな雰囲気だが、暖炉の温かさと、特有の優しい光量が、それを和らげてくれた。
いつもの癖で自然と右手のリビングチェアに視線が向く。3年前に他界した母、マリアの定位置だったイスだ。貴族社会での身の振り方に困った時は良き相談相手でもあったし、養育を頼んだザイトリッツ関連の話になると、何かと無茶を言われたものだ。言ってもせんのない事だが、今日の晩餐にいれば一番喜んだのも母上だろう。

「コンコン......」

ノックとともにメイドが新しいアイスペールと水、グラスを持って入室してくる。身近なサイドテーブルに置いてもらうと、あとは好きにやるので休むように言い添えた。冷えたレオを新しいグラスに注ぎ、グッと呷る。当家に用意されているのは、陛下のお名前を冠した『フリードリヒ・コレクション』だが、年々、味が良くなっているようにも思う。

「レオか......」

そう言えば、父、レオンハルトの戦死を知ったのも、ザイトリッツが交通事故にあったのも、知らせを受けたのはこの遊戯室だった様に思う。3人の息子たちの婚約相手を決めたのもこの部屋だったし、あのイゼルローン要塞の建設に協力することが決まったのもこの部屋だ。詩人を気取るなら、この部屋は『ルントシュテット家の歴史の舞台』とでも表現するのだろうか。他家でもこんな場所があるのだとしたら、それはそれで逸話を聞いてみたい気がした。

第二次ティアマト会戦の訃報を聞いた時は、軍部貴族のほとんどが先行きが見えない状態だった。
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