220部分:第十五話 労いの言葉をその十
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第十五話 労いの言葉をその十
「それだな」
「はい、そうです」
「今は本当に恐ろしいことになりました」
「どう御考えなのですか?」
「どう、か」
周りのその言葉には。王は平然と返す。まるで何とも思っていないようにだ。
こうだ。王は言った。
「落ち着いていればいい」
「ですがプロイセン軍はウィーンに入城しようとしています」
「その返す刀でこのバイエルンにも来ます」
「それをどうされるのですか」
「一体、どうされますか」
「戦われますか、それとも」
「降伏ですか」
こう王に口々に言う。しかしである。
王の態度は変わらない。そのうえでの言葉だった。
「戦いも降伏もしない」
「どちらもですか」
「されませんか」
「そうだ、しない」
どちらもしないというのである。
「戦いも降伏もしないのだ」
「あの、それではです」
「プロイセンに対して何をされるのですか」
「何もされないのではです」
「どうにもなりませんが」
周りは王に対して焦りを見せる。彼等にしてみればまさに焦眉の急である。だからだ。彼等は王に対して問わずにはいられなかった。
しかしだ。それでも王の態度は変わらずだった。相変わらず平然としていた。そのうえで彼等に対してだ。こう告げたのだった。
「安心するのだ」
「安心!?」
「安心とは」
「言った通りだ。安心していいのだ」
これが王の言葉だった。
「今はだ」
「あの、ですが」
「実際にプロイセンはです」
「サドワにおいて勝利を収めました」
「ですから」
「勝利を収めたからだ」
王もそれはわかっている。だが、だ。そこに見ているものはだ。王と周りとではだ。全く違っていた。何もかもが違っていたのだ。
「それで終わりだ」
「まさかと思いますが」
「プロイセン軍が動かれないというのですか?」
「プロイセン軍がこのまま」
「動かれないと」
「そうだ、動かないのだ」
こう話す王だった。彼等はだというのだ。
「ウィーン入城はない」
「ないのですか」
「それが」
「そうだ、ない」
断言だった。まさにだ。
「ましてやこのバイエルンにもだ」
「来ないのですか」
「絶対に」
「だから安心していいのだ。それではだ」
ここで話を打ち切った。そうしてであった。
ビューローに対してあらためてだ。こう告げたのだった。
「それではだ」
「音楽ですね」
「そうだ、タンホイザーだ」
それを聴くというのであった。そしてその曲はだ。
「序曲だ。それを頼む」
「はい、それでは」
「音楽、とりわけワーグナーはいい」
奏でられはじめた演奏の中でだ。王は話した。
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