209部分:第十四話 ドイツの国の為にその九
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第十四話 ドイツの国の為にその九
「ワーグナーを救った」
「そうですね。あの方をこの国に呼んで」
これはホルニヒだけでなく誰もが知っていることである。ドイツの誰もが。バイエルン王のワーグナーへの唯ならぬ耽溺はなのだ。
「そうして」
「ワーグナーの世界を救ったのは」
「それは英雄ですね」
「ローエングリンの筈なのだ」
そうに違いないと思った。だが、なのだった。
「しかし。それでも」
「陛下は女性を」
「エルザを愛せる筈なのだ」
ローエングリンのそのヒロインだ。ブラバントの姫だ。ローエングリンの救済を受けその妻となるが禁を破ってしまう乙女である。
「だが。どうしても」
「やがて変わるのでは?」
「変わるというのか」
「はい、時が来ればです」
ホルニヒの今の言葉はあえての慰めだった。
「陛下も。女性を必ず」
「だといいがな」
「ですからそのことは考えられずとも」
「そうか。ならいいがな」
「はい、それでは」
「私は今は」
「今は?」
王の言葉に問うた。その言葉に。
「どうされますか」
「その時が来るのを待とう」
王の言葉はこれだった。そうしてだった。
遠い目でだ。また話した。
「エルザを迎えに来る時をな」
「そうされますか」
「そうする。そしてさらにだ」
王は言葉を続ける。自然に。
「この戦争の間はここに留まる」
「そうされますか」
「そうしよう。戦争はどうしても好きになれない」
「陛下は。確か」
「確か?」
「赤十字というものに注目されていましたね」
ホルニヒはこのことも話に出した。
「そうですね」
「そうだ。私は実際に」
「あの赤十字に注目されていますか」
「戦いでは人は傷つく」
そして死ぬ。そうなることをわからない者はいない。
「しかしその傷を癒せる者がいれば」
「その者を支持したいのですか」
「そうだ、そうしたい」
こう言うのだった。
「そうした者がいてもいい」
「アンリー=デュナンでしたね」
「人は彼を荒唐無稽と言うな」
「そう言う者もいるのですね」
「ドン=キホーテだと」
あの己を騎士と思い込んだ道化だというのだ。
「だがその道化が」
「大きな力になるのですね」
「道化が道化でなくなるのだ」
こうも言うのであった。
「道化は。人が道化と思うから道化であり」
「人が思わなければ」
「もう道化ではない」
「では何でしょうか」
「英雄なのだ」
それであると。王はホルニヒに話す。
「彼は英雄になるのだ」
「なれるのではなく」
「戦場で傷ついた者を助ける。それは英雄なのだ」
「英雄は戦争で勝利を収める者ではないのですか」
「戦争で生み出されるものなぞ」
それはどういったものか。王はその
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