208部分:第十四話 ドイツの国の為にその八
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第十四話 ドイツの国の為にその八
「白や銀色もあるがだ」
「ワーグナー氏はまず青ですか」
「そうだ、青だ」
また言う王だった。
「青がまずあるのが彼の世界なのだ」
「青が最初に」
「ローエングリンが出る時にだ」
白銀の騎士、しかしだというのだ。
「全てが青く染められてしまう」
「暗鬱だったものがですね」
「そうだ、全てがそうなる」
清らかな青に。変わってしまうというのだ。
「英雄達は全てを清らかな青に変えるのだ」
「その色が青ですか」
「青は清らかなものだ」
王のイメージの中でのことを。そのまま話すのだった。
「その青に変えてくれるのが英雄だ」
「タンホイザーにローエングリン」
「トリスタンもだ」
まずはこの三人が挙げられる。そしてさらにだった。
「これから出て来る者達もだ」
「ヴァルターにジークムントですか」
「それにジークフリートだ」
彼等もだというのだ。
「彼等もまたそうなのだ」
「全てを清らかな青に変える存在ですか」
「そうだ。ただしだ」
「ただ?」
「それができるようになるには一つのことが欠かせない」
こんなことも言う王だった。
「一つのことがだ」
「それは何でしょうか」
ホルニヒはその欠かせないものが何かを尋ねた。尋ねずにはいられなかった。
王との話は彼にとっては無限に引き込まれるものだ。だからだ。
「欠かせないものとは」
「救済だ」
「救済?」
「そうだ、救済だ」
それだというのである。
「愛による救済だ」
「それが欠かせないのですか」
「そうなのだ。英雄が英雄となり」
さらにだった。
「そして世界を清らかな青に変える為にはだ」
「愛による救済が必要なのですか」
「その英雄を救うな」
世界を救う英雄をだ。救うものがだというのだ。
「それは女性的なものなのだ」
「女性ですか」
「私は女性を愛せない」
それはどうしてもだというのだった。
王はこれまで女性を愛したことがなかった。そしてだ。
そのことについてだ。王はさらに話した。
「何故かはわからないが」
「といいますと」
「私は女性に自分と同じものを感じる」
戸惑いを見せた顔での言葉だった。
「だからだ。女性は」
「愛せませんか」
「拒んでしまう」
そうなってしまう、それが王だった。
「私は男であり女性を愛するものの筈だが」
「しかし女性は」
「愛せない。鏡に映る自分は愛せる」
それはできてもだ。しかしなのだった。
「だが。女性は」
「愛せない」
「何故かわからない。私はローエングリンの筈であり」
男だからだ。それに違いないというのだ。
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