英雄ヴィレント
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た。
敵部隊が去ると、後には殺されなかった僅かな味方兵士が残った。
「ネモ……帰ろう」
抱き寄せて呼びかけても、彼からの返事は返ってこない。
どうして?
なぜ、兄は私を殺さないのか。ネモを、私の一番大切なものを奪っておいて。
ネモがいなくなるなら、私はあそこで一緒に死んでも構わなかったのに。
なんで? どうして?
私を苦しめるだけ苦しめて、でも決して殺しはしない。
兄は昔と何も変わっていない。
私にとって兄は、付きまとう呪いのようなものなのか。
そしてその呪いに、ネモは巻き込まれた。
私が……私のせいで……。
「ネモ、帰ろう。私が支えてあげるから……」
彼からの返事はない。
だが、彼をこんなところに置き去りにはできない。
肩を支えて引き起こそうとする。だが、上手く力が入らない。
よろよろと立ち上がると、見かねた味方兵士が、手を貸してくれた。
彼らの手を借りて、どうにか私は歩き出した。
そこから、どうやって砦まで戻ったのか、あまりよく覚えていない。
砦の訓練室、今は遺体安置所となっていたその場所に、ネモが横たわっている。
大勢の兵士が寝かされ、ネモはその中の1つに過ぎない。
まるで現実感がなかった。
今回の私達の出陣は、自分から言い出したことを思い出す。
兄との戦いも、私が承諾した。ネモは反対していた。
私のせいなの……?
私のせいでネモが……?
「……ごめんなさい。ごめんなさい、ネモ」
私は寝ている彼に縋って、泣きながら何度も謝った。
彼は答えてくれない。
ネモは、眠っているように静かだった。
何も言ってはくれなかった。
私のミスだ。私の責任だ。
だから、どれだけ攻められたって、怒られたって構わない。
どんな罰だって受ける。
だから……
「嫌だよぉ……1人にしないでよ! ……ネモ、お願い……」
どれだけ泣きじゃくっても、ネモが何かを答えることはなかった。
その夜、私はずっと泣き叫んでいた。
もし時が戻せるなら、この時ほどそう思ったことはない。
彼はもう帰ってこないのだ。
この日、私はまた居場所を失った。
ネモと出会って、僅か数ヶ月のことだった。
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