英雄ヴィレント
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の戦いなど比べ物にならない。この状況は、一歩間違えば2人とも命を落とす。
でも、ネモを見捨てる選択肢は私には当然ない。私は踏み込んで、2連撃を繰り出した。
何の動揺もなく、それらを避けられる。反撃の振り下ろしが左肩を掠った。恐ろしく速い。
盾の使えない状態で、こんな反撃をまともに受ければ即死だ。冷汗が頬を伝う。
さらに続く、兄の連続突き。
必死に避ける。こちらの剣で受けようとしても、その隙間を易々と突き抜けてくる。
遂に右手首を斬り裂かれる。痛みに耐えかねて、握っていた魔力剣を維持できなくなる。
「……っ!?」
もし兄の剣に本来の長さがあれば、腕を切り落とされていただろう。
出血だけで、右腕は付いている。だが、これはまずい。
「チェントっ!!」
ネモが見かねて、援護に走った。
構えていた盾を後ろに引いて、兄を牽制すべく右手の剣を突き出す。
兄の背中を狙った一撃。完全にその視界には入っていないはずの攻撃だった。だが……
「ネモ、駄目っ!!」
私が叫んだ時には、既に兄は振り向きざまに剣を一閃させていた。
私は見ていた。見てしまった。
兄の剣が、彼の心臓を抉るのを。
それは決して、掠り傷などではない。
背中まで達しそうなほどの深い傷が、胸元に刻まれていた。
私は、裏返った声で彼の名を叫んだ。
おびただしい量の血液が噴き出す。
戦いの最中であることも忘れ、走り寄って彼を抱きとめた。
溢れ出てくる血が、私の胸元をも汚した。それは止まることなく、次々と噴き出してくる。
「逃げ……ろ、チェ……ント……」
虚ろな目で、ネモが必死に言葉を絞り出していた。
嫌だ。
言葉を続けようとして、彼は血を吐いた。
嫌だ。
「す……まない、俺…は……」
ずしりと彼の体が重くなった。彼は膝を折り、私の腕から滑り落ちる。
「ネモ! ネモっ!!」
必死に呼びかける。
彼の瞳は、開いたまま虚空を見つめていた。
私は呼びかけ続けた。
「ネモ……逃げないと。一緒に……早く逃げないと、ねえ……」
ネモは返事をしてくれない。
嫌だ。
返事をして、ネモ……お願い。
放心状態の私は、後ろから胸ぐらを掴まれていた。
首筋に、折れた剣を押し当てられる。
「おい!」
兄が私を冷たい眼で睨んでいた。
私のことなど何も気にかけていない、そういう眼だった。
今の私に、逆らう気力など残っていない。
「2度と俺の前に姿を見せるな。わかったな」
それだけ言うと、兄は私を放置したまま進軍して行った。
周囲は、私達が劣勢になったあたりで部隊の士気が乱れ始めたようで、こちらの部隊は半壊状態だった。
なおも敵の進軍を阻止しようとした勇敢な兵士は、兄にあっさり斬られ
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