英雄ヴィレント
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の声には焦りが見える。
「大丈夫、まだ負けてないよ」
兄からは視線を外さないまま、私は答えた。落ち着いた声で。
私が焦れば、彼がいつも落ち着かせてくれる。彼が焦った時は、私が落ち着かなければ。
私達は2人で戦っているのだから。
「まだ盾は2つ残ってる。だから大丈夫」
強がりを言っているつもりはない。
私も兄も、僅かではあるが軽く息が上がっていた。
お互いまだまだ戦える。だが、兄も決して消耗していないわけではないのだ。
きっと勝算はある。剣を構えなおす。
兄に休む暇を与えてはいけない。
もう一度前に跳び、私は大きく踏み込んだ。兄も剣を構えなおす。
再度、接近戦が始まる。
今、狙うべき場所は1つ。
私は前に出ながら、左手の赤い剣を振り上げる。
そして兄の胸元を狙って、思い切り振り下ろした。
だが兄はこちらの予想通り、自身の剣であっさりそれを受け止める。これは想定内。
今だっ!
私は右手の赤い剣を、左手の剣に十字に合わせるように叩きつけた。
激しい火花が散る。歯を食いしばって私の全力を込めた。
それが持ちこたえたのは、そう長い時間ではなかった。
「!?」
派手な異音を立てて、遂に兄の剣が折れる。
私の2本の剣は、兄の剣の守りを突き抜け、その体に襲い掛かった。
だが兄はそれを本当に、本当にギリギリのところで体を反らして避け、後ろに下がった。
あのタイミングでまた逃した。どこまでも驚異的な反応。
しかし、形勢は完全に逆転した。
兄の剣の切っ先は、ちょうど刃の長さ半分程度のところで、砕け飛んでいた。
やった!
狙い通り。あれだけ何度も、私の赤い剣と刃をぶつけあっていたのだ。以前から槍の柄程度なら、一振りで斬り飛ばしてきた私の魔力剣と。
むしろ兄の剣は、ここまでよく持ちこたえたと言うべきなのだろう。それなりの業物だったのかもしれない。
大きく息を吐く。思わず笑みがこぼれた。
勝てる! 私、兄さんに勝てる!
長い間、私を苦しめてきたこの人に、遂に一矢報いるのだ。
一方、兄は大きく焦りを見せることなく、構えたまま折れた切っ先を見つめていた。
武器を壊されても落ち着いている。一瞬、退却するかもと考えたが、今のところそういう様子はなかった。
どのみち退却を許すわけにはいかない。
こちらは貴重な盾を一枚失ってしまったし、武器を整え直されて再戦ともなれば、次の結果はわからないからだ。
私はじりじりと、ゆっくり間合いを詰めていった。
油断はしない。隙を見せたら、一撃で決める。
兄は先程から同じ姿勢で、折れた剣を構えたままピクリとも動かない。
味方もまだ戦っている。まだ、どちらが優勢ともいえない状況に見えた。
ここで兄を討てれば
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