英雄ヴィレント
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お互いのただならぬ技量を感じ取り、私達は一旦距離を取った。
息を吐く。
兄は鉄の剣を構え、鋭い目をして立っていた。
かつて夢で見た姿と、まるで同じように。
私はその目をまっすぐ見た。
「兄さん、久しぶり」
そんな言葉が自然に飛び出したことに、私自身が驚いた。
久しぶりなのは本当だ。
兄と会うことが、そしてそれ以上に、言葉を交わすことが。
声を聞いて、ようやく兄も相手が私だと気づいたようだった。
「チェント、なぜお前がここにいる? ここで何をしている?」
私を見た兄の表情には、僅かに動揺が見て取れた。
だが、鋭い眼光は崩さない。
剣を下ろして構えを解くようにこともしない。
剣を突きつけ昔と同じように、いや、昔以上の険しい表情で私を睨んでいた。
「見てわからないの? 私、魔王軍にいるの。兄さんの敵になったの」
自分の顔が笑っているのがわかった。
兄の驚いた顔を見るのは、初めてかもしれない。
少し気分が晴れる。
だが、この程度のことで、私の受けた苦痛が返せたわけがなかった。
今度は私から仕掛ける。
2本の赤い剣を左右交互に振るい、攻撃を仕掛けた。
兄は一撃目の横斬りを剣で受け流し、次の突きを首すれすれでかわす。
直後に電光石火の勢いで、カウンターの一撃が返ってきた。
私では完全に反応できないそれを、赤い盾が防ぐ。兄に微かな動揺が見えた。
完璧に捉えたと思った攻撃を予想外のものに防がれて、そこには隙が生じる。
今だっ!
私は踏み込んで、両手を一閃させる。
しかし、兄はギリギリのタイミングで、後ろに跳んでそれを交わした。
再び私達は、距離を取って睨みあった。
既に周囲では、味方敵の部隊同士の交戦が始まっていた。
だが、私達の間には、誰も踏み込むことはできない。
兄が私に向かって口を開いた。
「お前が、俺を憎む理屈はわかる」
兄からそんな言葉が飛び出し、私は少し驚いた。
この期に及んで、この人は何を言っているのだろう?
今更どう言い訳したところで、私の過去に味わった痛みは、苦しみは、消えないのだ。
「それでも向かってくるなら、容赦なく殺すぞ」
私の目を睨みながら兄が続けたのは、そんな言葉だった。
謝罪の言葉など、ありはしなかった。
私も元から、そんな言葉は期待してはいなかったが。
そもそも、兄はさっき"理屈はわかる"と言ったのだ。
"気持ちはわかる"とは決して言っていない。
私が味わった地獄など所詮、この人にはどうでもいいことなのだろう。
いや、それでいい。
だからこそ、私は何の罪悪感もなく、あなたに剣を向けられる。
剣を構えなおす。
次は2人同時に、私と兄は地を蹴った。刃と刃が再びぶつか
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