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緑の楽園
第三章
第31話 用意周到
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 おそらく、大事な書類だけ持って逃げたのだろう。
 懸賞金付きのお触れ書きは出すそうだが、周知される前に本部に帰還されてしまう可能性が高そうである。



 巫女は、カイルが来たあともしばらく残ってくれて、晩の食事の準備の手伝いをしてくれた。
 そして日が沈む少し前に、神社に帰っていった。
 もう大丈夫だよと言ったが、明日の朝また様子を見に来てくれるらしい。
 本当にありがたい。

 失礼とは知りつつ、年齢も聞いてしまった。
 巫女は現在十六歳らしい。幼少の頃から神社にいるそうだ。
 戦闘のときに使用していた棒は適当に拾ったものだそうだが、棒術についてはもう十年くらい神社の先輩に教わっているとのこと。どうりで強いわけである。
 ヤハラは相当運が悪かったようだ。



 ***



「兄ちゃん、今日は一日お疲れ様でした」
「お疲れ様。やっぱりここに泊まるわけ?」
「うん」

 例によってカイルはベッドに潜り込んできて、一緒に寝ている。
 他の病室や待合室に行けば、ベッドや寝られそうなソファーがある。だがそれらは女将軍や兵士が交代で寝ているので、埋まっている状態である。
 何となく、埋まっていなくてもここに潜り込んでいたのではないかという気もするが、疑わしきは罰せずだ。

「お前、やらないといけない用事があって首都に残ってるんだろ? いいのか」
「大丈夫だよ。オレ、町にはしばらく帰らないことにしたから。兄ちゃんと一緒にいる」
「それはダメだ」
「なんで」
「お前は仕事があるだろ」
「仕事なら大丈夫だよ? しばらく帰らないかもって話はしてるから。戻らない場合の代行の人もお願いしてるし」
「なんでそんな段取りをしてたんだよ……」

「うん。今回オレ、用事があって首都に残っていることになってるけどさ。実は用事以外にも、町長さんから、兄ちゃんの様子を見てこいって言われてて。で、もし危なっかしい感じなら、当分の間さりげなく付いててあげてって言われてたんだよね」
「……それは本人である俺に言ってしまっていいのか?」
「あー、ダメだね」
「お前はアホか」
「へへへ」

 町長は今でも俺のことを心配してくれていたようだ。
 情けない、嬉しい、どちらもあるが、やはり嬉しいのほうが強い。
 元気にしているかな。町長。

「あ、ちょっと待った。やっぱり今の話は無し」
「へ?」
「やっぱり町長さんには何も言われてなくて、オレが兄ちゃんを心配して勝手に残るってことにしよう」
「なんでだよ」
「なんか『言われたから残ります』だと、仕方なく残るみたいじゃん」
「だって事実そうなんだろ」
「そうじゃないもん。オレは兄ちゃんが心配だから残る。そっちのほうがずっと大きいもん」

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