197部分:第十三話 命を捨ててもその九
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第十三話 命を捨ててもその九
川が流れ花々が咲き誇りだ。そのうえでアラビア風、オリエントの建物があり鳥達がいる。そして空には青と白の色があった。
それは確かに素晴らしいものだ。しかしだった。
よく見ればだ。それは。
「人工のものですね」
「そうだ、自然ではない」
その庭の中でだ。王はホルニヒに答えた。
「ここは。人工の庭園だ」
「やはり。そうですか」
「私が造らせたものだ」
王は微笑みになってホルニヒに話した。
「ここは。そうなのだ」
「陛下がですか」
「それを実現できる技術があるならば」
「それがあるならば」
「使うべきなのだ」
そしてだ。ホルニヒにこうも話した。
「その為の技術なのだからな」
「技術は使う為にあるもの」
「そうだ。だからな」
こう話す。そしてだ。
ホルニヒにだ。今度はこう告げたのであった。
「ではだ」
「はい、それでは」
「庭の中を散策するとしよう」
彼にだ。それを勧めるのだった。
「これからな。そうするとしよう」
「わかりました」
ホルニヒも微笑みと共に頷いた。そしてであった。
二人でだ。そのオリエントの庭園を歩いていく。ドイツではないその世界を。
南方の花々の色は赤であり黄色だ。そして派手だ。白い建物は異郷の美しさをそこに見せている。そうしてさらにであった。
空にだ。虹が出た。七色の虹がだ。
急に出て来たそれを見てだ。ホルニヒは思わず声をあげた。
「虹が」
「驚いたか」
「はい、人工の虹ですか」
「そうだ。虹もまた」
王もまたその虹を見ている。そのうえでだった。
ホルニヒに対してだ。その虹について静かに話すのだった。
「こうして。造り出すことができるようになった」
「虹がですか」
「そうなのだ。人は美しいものを造り出せるのだ」
その虹こそがだというのであった。
「美は。造り出せるものだ」
「自然とあるだけではなくですか」
「自然にある美も。人工の美も」
王の言葉が続けられる。
「美だ。人はその美の為に生きられればそれで幸せなのだ」
「幸せ」
「そうだ。幸福だ」
王は述べた。
「それこそが幸福なのだ」
「ではこの庭園は」
「私が美の為に造らせた。だが」
ふとだ。王は虹から視線を逸らして俯いてだ。そのうえで言うのだった。
「この庭も。所詮は」
「所詮は?」
「大したものではない」
寂しい顔になっての言葉だった。
「夢のものでしかないのだ」
「夢なのですか」
「そうだ。うたかたの夢だ」
それでしかないというのだ。
「覚めればそこには空虚があるだけなのだ」
「これだけ美しい世界が」
「模造の建物に絵の具の空に山」
そういったものを見ながら。話をしていく。
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