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戦国異伝供書
第十二話 苦闘の中でその十三

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「それならばな」
「一万や二万ではだね」
「何にもならぬ。だからな」
「それでだね」
「しかもその兵を送りたくても送れぬ」
「十五万を集めてそのうえで援軍に向かう」
 風が言ってきた。
「そうしますね」
「そうじゃ、それでじゃ」
「まずはあたし達が言って」
 それでというのだ。
「徳川殿をお助けする」
「籠城ならともかく外での戦になればじゃ」
 信長はその場合のことも話した。
「竹千代は絶対に負ける」
「その時にですね」
「お主達が何としてもじゃ」
「徳川殿をお護りして」
「そして逃がすのじゃ。しかしな」
「しかし?」
「竹千代を助けてもじゃ」
 それでもと言うのだった。
「お主達もじゃ」
「おいら達全員がなんだ」
「死んではならぬ」
 家康を逃がしてもというのだ、信長は大蛇にも話した。
「決してな」
「そういうことだね」
「そういうことじゃ。ではな」
「うん、絶対にね」
「死んではならぬぞ」
「わかったよ」
 大蛇も頷いた、そして他の飛騨者達もだった。
 信長の言葉に頷いた、そのうえで。
 信長はここでだ、飛騨者達に笑顔でこう言った。
「さて、出る前に茶か酒を馳走するが」
「どちらかをですか」
 拳が信長のその言葉に応えた。
「我等に」
「うむ、どちらがよいか」
「酒は駄目でしょうか」
 拳は信長に少し申し訳なさそうに尋ねた。
「そちらは」
「わしが酒を飲めぬからか」
「そう思いましたが」
「ははは、その様な気遣いは無用じゃ」
 信長は拳に口を大きく開けて笑って応えた。
「一切な」
「左様ですか」
「そうじゃ、お主達を送るのじゃ」
 その為のものだからだというのだ。
「だからな」
「我等の好きな方を」
「そうじゃ、選ぶのじゃ」
「ありのままに」
「わしに遠慮なぞせずにな。それでじゃ」
 信長は今度は自分から拳に言った。
「酒じゃな」
「はい、そちらを」
「ではそれを出してじゃ」
「そのうえで」
「お主達を送ろう」
 こう言うのだった。
「是非」
「それでは」
「酒じゃな、酒にじゃ」
 それに加えてだった。
「美味いものを出そう」
「その美味いものは」
「岐阜の川の幸と山の幸じゃ」
 そちらになるというのだ。
「ただ川のものからな」
「それは、ですね」
 今度は煙が言ってきた。
「生ものは」
「川のもので生ものは口にしてはな」
 若しそうすればというのだ。
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