魔の谷攻防戦
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周囲を囲まれながら、私は傷一つ負っていない。
浮遊石の盾は、魔法でただ強度を増しただけではなかった。
それだけでは、この盾は、向けられる敵意だけを追って、どこまでも漂っていってしまう。
私の周囲に張り付かせ、向けられる攻撃を的確に受け流すには、ある程度、魔法で制御してやる必要があった。
今、それを行っているのは、私の後方に控えているネモだった。
「いずれは、盾の制御もお前1人でこなせるようになれ。そうすれば、お前は魔王軍最強の戦士になれる」
それなら、今のままでもいいかな、と私は思っていた。
今の私には、盾の制御と戦闘を同時にこなすだけの技量がない。
だが、そうである限り、彼が守ってくれるのだ。
これ以上の安心がどこにある?
20人以上斬ったあたりだろうか?
敵兵の攻撃が疎らになり、明らかに士気が乱れ始めた。
ベスフル軍にしてみれば、敵1人に、何人が斬りかかっても、傷一つ負わず、味方が次々と倒れているのだ。
恐怖を覚え、攻撃が鈍るのも、仕方ないことなのかもしれない。
「今だ、突撃ぃーっ!」
後方から声がした。
魔王軍の部隊長の声だった。
敵の士気の乱れを突いて、一気に攻め落とす気なのだろう。
兵士達が、ショートソードを抜いて、一斉に駆け下りてくる。
ベスフル兵は、完全に浮足立っていた。
こちらの兵士の攻撃で、敵兵は、次々と倒れていく。
味方の優勢を確認してから、私は後方に下がった。
「ふう……」
流石に少し疲れ、息を吐く。
まだ、心臓がどきどきしていた。
後ろから、肩に優しく手を置かれた。
相手は、もちろん、ネモだった。
「ネモ、やったよね? やれたよね? 私」
振り向き、笑いかける。
考えてみれば、返り血に塗れた姿の笑顔というのは、少し怖かったかもしれない。
「ああ、よくやった。誰にも真似できない初陣だった」
褒めてくれた。
あなたのその言葉があれば、私は何とだって戦える。
何人だって殺せる。
私はそう思った。
戦いは、終結しつつあった。
敵兵の大半は倒され、敗走を始めた兵士達が、背中に矢を受けていた。
「お前達、よくやってくれた」
戦いが決着すると、部隊長が私達に声をかけてきた。
「素晴らしい戦果だ。殆ど、お前達のおかげだ」
出陣の時には、私達の能力に疑問を持っていたように見えた部隊長も、すっかり態度が変わっていた。
「全て、チェントの戦果です。私は僅かな援護しかしておりません」
ううん、あなたがいたから、戦えたんだよ。
私は心の中で言った。
「うむ、初陣でこの戦いぶりとは、この先が楽しみだな」
すっかり機嫌をよくした部隊長は、そう言って笑った。
この戦いで、味方への被害は、殆ど出ていなかっ
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