第三章
第29話 人間
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。
が、正座だったので素早く動けなかった。
しまった――
「うっ」
胸を前蹴りされた。
後ろに吹っ飛ばされて、壁に背中と頭をぶつけた。
「……っ」
視界に火花が散る。呼吸が一瞬止まった。
ぼやけてしまった目の焦点を合わせ、立ち上がろうとした。
が、すでにそのときには、加速度を持った足の甲が目の前に迫っていた。
「がぁっ」
胸への強い衝撃とともに、また背中と頭が壁に衝突した。
今度はさらに衝撃が大きい。立ち上がれなかった。
「覚悟しての回答とは思うが……。そういうことであれば、ここで死んでもらう」
片手で胸倉をつかまれた。
そしてそのまま持ち上げられた。中年男性のものとは思えないほどの力だった。
「お前のせいで失敗が続いた。楽に死なせるわけにはいかない」
そのまま引きずられた。
手足を動かそうとしたが、力が入らない。苦しい。
さっきヤハラが入ってきたと思われる戸が開く音がした。
奥の部屋の中に、放り投げられた。
「うっ……」
体がバウンドするのを感じた。
そして戸の閉まる音がする。
「こちらのほうがいい。音が外に漏れると困るからな」
「はぁ……はぁ…………」
「まだ立てるか。脳震盪を起こしていると思うが」
ヤハラがゆっくり近づいてくる。
「誰か! 助けてくれ!」
思わず情けないことを叫んでいた。
しかしダメージのせいで声が腹から出ない。
「助けを呼んでも無駄だ。外には聞こえないだろう」
「ふうぁあっ」
蹴りが鳩尾をまともに直撃し、また倒された。
受け身も取れず、後頭部から床に着地した。
再び胸倉をつかまれ、無理矢理起こされる。
そして首ごと掴まれるかたちで、壁に押し付けられた。
「確か……銃弾が命中したのは右わき腹だったか」
――あ?
「うああぁぁっ」
右わき腹に膝が入り、ボコっという音がした。
そして直後に、温かいものが流れ始めた感覚。
傷口が開いたのか……。
痛い。
内側まで焼かれるような痛み。
「タケル。この者が持っていた剣を持ってきてくれ」
切り刻む気だ……。
ヤバい……ヤバい。
こうなることはわかっていたが。いざ直面すると駄目だ。
怖い。
頼む。誰か来てくれ……。
「ヤハラ……」
「何だ?」
「この人間は、味方はしないが敵対もしないと言っていました。脅し文句として『殺す』というのは大丈夫だと思いますが、敵対の意思がないのであれば殺さないというのが本部の指示だったはずです。ここは捕らえて本部に送――」
「敵対したことにすればいい」
「え?」
……。
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