第三章
第29話 人間
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い。
ただ単に、家に帰りたいだけだ。
だが確かに、国側から求められれば教えたかもしれない。
それを防ぐため、急いで誘拐したということなのだ。
「さて、話はこれくらいで十分だろう。お前はもともと今の時代の生まれではないし、今のこの国に果たさなければならぬ義理はないはずだ。こちらに来てくれれば、我々――真の人間の祖先であるお前に、最高級の待遇を用意できるだろう。どうだ? 来てくれるか?」
話せる内容はおおむね話したということだろう。
ヤハラは話を締めて、俺に回答を迫った。
回答は……。
すぐに決まった。
「今話を聞いた範囲での判断ですが、俺はあなた方に付いていきたくはありません」
ヤハラの話はわかりやすかった。
わかりやすかったから、なおさらそう思ったのかもしれない。
この組織は駄目だ。駄目すぎる。
絶対に仲間にはなりたくない。
誰がこんな奴らに付いていってやるもんか、と思う。
そんなことになるくらいなら、ここで殺されたほうがマシなのではないかとすら思った。
俺は、ヤハラとタケルを交互に見ながら続けた。
「俺らの文明を継承って言っていましたが……。俺には悪いところだけ引き継いだようにしか見えません。
世界が崩壊する戦争が起きた理由は、自分たちだけ≠ェレベルを維持しようと、バカな考えを持ち合った結果だったんですよね? あなた方の考えは結局それとあまり変わらないじゃないですか。
自分たちだけ≠ェ優位を保ちたいがために、地上の人間を監視して、文明が進まないようにあの手この手で一生懸命妨害する――結局、あなた方は抜かされるのが怖いだけなんじゃないですか。自分たちは今の地上の人達より優れているという、ちんけなプライドを保ちたいだけなんだ。そんな組織の仲間になるなんて、絶対に嫌だ」
ヤハラの表情はやはり変わらないが、タケルのほうにはやや狼狽している様子が見られた。
きっとこの少年は、幼少のころから洗脳教育を受けてきたのだろうと思う。まだ心が成熟しきらない年齢で、植えつけられた知識を否定される話を聞いたので、動揺しているのだろう。
「俺は決してそちらの組織に敵対する存在じゃありません。あなた方の邪魔をしようとも思いません。でも味方は絶対にしたくない。
俺から見れば、あなた方よりも、今この国で暮らしている人たちのほうがずっと人間らしい。あなた方は真の人間なんかじゃない。真の人間だと勘違いしているだけの、誇大妄想に浸る病人の集団だ」
ヤハラは結局、最後まで表情を変えなかった。
「そうか……わかった。話が早くてありがたい」
言うと同時にヤハラは立ち上がり、テーブルを乗り越えてきた。
襲ってくる気だ――俺も立ち上がろうとした
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