19部分:第一話 冬の嵐は過ぎ去りその十三
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第一話 冬の嵐は過ぎ去りその十三
そうして幕が開き姫、エルザ=フォン=ブラバントが王と騎士達に囲まれ審判を受けようとしていた。姫はここで語るのだった。
自分を救ってくれる白銀の騎士が来ることを。それを語ったのだ。
誰もがそれを疑おうとする。しかしここでだった。
河の向こう、その彼方から小舟が来る。白鳥に曳かれたそれに乗っているのは。
白銀の鎧と兜、そして白いマントにその身体を包んだ見事な騎士だった。その両手に剣を抱いている。その騎士が来たのである。
騎士を見てだ。太子は息を飲んだ。その彼に全てを見てだ。
言葉を失ったまま騎士に魅入られる。その太子を見てだ。周囲は異変を感じ取ったのだった。
「おかしいな」
「ああ」
「今の殿下は何かが違う」
「そうだな。歌劇を観る顔ではない」
「あれは」
何かというとだった。
「恋に出会ったような」
「まさにそうした顔だな」
「そうだ、その顔は」
「少なくとも歌劇を観られるものではない」
「そうした御様子ではない」
「これは」
そしてだ。年配の侍従が言った。
「よからぬことにならなければいいが」
「よからぬこととは」
「といいますと」
「何が」
「殿下は一つのことにその御心を囚われる方」
太子のことをよくわかっている言葉だった。
「あの歌劇にもまた」
「しかし歌劇です」
「それに過ぎません」
だが周囲はその年配の侍従にこう言うのだった。
「ですから例え何があっても」
「大したことにはなりますまい」
「精々」
どうなるか。若い侍従が述べた。
「あの歌劇にのめり込まれるだけです」
「そうだな。結局は」
「それだけで終わる」
「大したことは何も起こらないだろう」
「別に」
「そうであればいいがな」
だが、だった。年配の侍従はそれでも心配する顔だった。その間にも歌劇は続いていく。
最後に聖杯の奇蹟が起こり姫は救われた。だが姫が騎士が禁じていたその名前を問うたが為にだ。騎士は去らなければならなくなった。
騎士は己の名を告げた。ローエングリンと。
「ローエングリン・・・・・・」
その名を聞いてだ。太子はこの舞台を観ていてはじめて口を開いた。
しかし以後はまた口を閉ざし舞台を観ていく。舞台は終局に向かっていた。
そうしてそのままだ。結末まで観た。結末は騎士、ローエングリンは聖杯の城モンサルヴァートに戻り姫と別れる。姫は泣き崩れ息絶えてしまう。悲しい結末だが全てを観終えてだ。彼は恍惚となっていた。
感涙さえしていた。そうして呟いた言葉は。
「これこそが」
何かというのだった。
「芸術なのだ。私が望んでいた芸術なのだ」
「気に入ったようだな」
「はい」
その通りだと父王にも答える。カーテン
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