47話:適性
[3/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
言ってくれたおかげもあり、前進論は形をひそめる結果になった。来期には第11駐留基地の増築案が採用される見込みだ。
ガイエスブルク要塞の方は、居住区画を各門閥貴族に割り振ったのは良いが、もはや笑い話の種になりたいのだろうか?設計図は認識していたものの、各々が少しぐらいなら大丈夫を繰り重ねたらしく、結果、誰も設計図と合う物を造らなかったらしい。笑い話としてなら、歴史に残る高額な費用を使った話になるだろう。俺が苦悶している中、宇宙レベルの茶番をしていたのかと思うと、腹立たしい。
一旦洗面台を使って落ち着こう。これから受勲を祝う宴が開催される。主役のひとりがしかめっ面では盛り下がる。俺はそれなりに空気を読む人種なのだ。洗面室から控えの間に戻る途中で、近衛から声を掛けられる。付いていくと叔父貴がおり、兄貴が内々で話したいらしく、バラ園へ一緒に来て欲しいとのことだった。バラ園か。兄貴がやりたいことは何もできない為、無為を埋めるために始めた趣味らしいが、どんな心境でバラの世話をしているのだろう。仲睦まじかった皇后殿下も体調を崩され、昨年身罷れたとも聞いているが。
宇宙歴777年 帝国歴468年 4月下旬
首都星オーディン バラ園付近
リヒャルト・フォン・グリンメルスハウゼン
「これが兄貴のバラ園か。ゾフィーから少し聞いた話だけど、花は丹精込めて世話をした分だけきれいに咲くらしいね。この美しさを素直に喜べないのがつらい所だけど」
勲章の授与式を終えたザイ坊と、陛下のバラ園へお忍びの態で移動してきた。咲き誇るバラを見て、ザイ坊が悲し気に感想を漏らす。こやつも陛下が本来なされたいことをウスウスは感じている所がある。あのまま行けば、帝国は門閥貴族達に貪りつくされると判断して、動いた結果がこれだ。したくもないバラの世話を陛下がされた結果の美しさ。儂も心からこの美しさを楽しめたことは一度も無い。今少しやりようがあったのではないかと思わぬ日はないが、あの一件は秘したまま、あの世にもっていくつもりだ。
「そうじゃな。陛下が本当に美しさを評されたい者達はこの美しさを素直に喜べぬ。陛下のお心を知らぬ者どもはどこかで読んだような口上をしたり顔で述べてくるな」
「叔父貴も言うようになったね。まあ、俺との場でぐらいはそうでないと、腹に色々溜まり過ぎるからね。こっちも似たようなものだし」
少し乾いた笑い声をあげてから、こちらを気遣うような視線を向けてくる。こやつは儂が秘していることもウスウス気づいておるのかもしれぬ。初めて会った時からすでに25年。いつの間にやら身長も抜かされ、儂が見上げる側になっている。あの時の飲み屋街での思わぬ出会いが、深い縁になるとは、この歳になって思うが、人との縁とは面白いものじゃ。
バラ園の入り口から、レンガ敷きの通路
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ