初陣
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魔王軍が負けるわけがないというのが、こちらの人々の見解だった。
兄が魔王軍に敗れるなら、それでいい。
あそこに私の居場所はないのだから。
「ごめんね、私から言い出したことなのに。情けないよね」
私は、ネモに向かってそうこぼした。
今回の出陣は、私自ら希望したものだった。
ネモは、最初は、かつての仲間たちと戦うことになる私を気遣って、戦いに参加しなくて済むように計らうつもりだったようだ。
「放っておいても、ベスフル軍は負けるだろう。元の仲間たちの悲惨な姿を、わざわざ見に行く必要はない」
ネモは、私にそう言ってくれた。
「ううん、あの場所にいるのは、私の仲間じゃない。ちゃんと決別するためにも、私自身に戦わせてほしい」
私は、確かにそう言ったはずだった。
そう決心したはずだった。
だが、戦う前から、この有様では、何のために出陣してきたのかわからない。
自分が情けなかった。
「それだけ、お前の中には、兄への恐怖が刻まれているということなのだろう」
幼いころに刻まれた恐怖は、そう簡単に消えないものだ、とネモは私を慰める。
彼には、私の過去のすべてを話していた。
兄と過ごした悲惨な日々も、ベスフルでの出来事も、何もかも。
「今から戻るか? 俺とお前の2人が欠ける程度なら、許しは出るはずだ」
彼は言った。
そんなことをすれば、今回の出陣に私を推薦した彼の名前に傷がついてしまう。
でも、彼はまったく気にしていないようだった。
「ありがとう。でも大丈夫。私、戦えるよ」
あなたがいてくれるから、そう言って笑って見せた。
彼の優しさに、期待に応えるためにも、ここで退くわけにはいかない。
「わかった。今は体を休めておけ。明日には、いよいよ、敵と接触する可能性があるからな」
彼は、私を寝かせると、自身も横になった。
そうして、夜は過ぎて行った。
翌日、朝日が昇るか昇らないかの頃に、私達は出発した。
これから戦場となるのは、魔の谷と呼ばれる場所である。
そこは、左右を高い丘や崖に囲まれ、長く伸びた、魔王領までの道。
平時であれば、なんてこともない、ただ長く続くだけの山間道だった。
私が、魔王領に来た時にも、馬車で通過したことのある場所だった。
だが、そこが戦場となれば話は違う。
中央の山間道を、馬鹿正直に大部隊を率いて進めば、左右の崖から矢を射かけられるだけで、大損害を被るだろう。
故に、それを警戒するなら、左右の丘や崖の上を移動するしかない。
しかし、そちらは、大人数が通れるような整備された道はない。
人1人が通るのがやっとの道、ロープがないと登れない崖などが続く。
高低差で優位に立つために、より高い場所を進もうとするほど、道は険しくなり、大部
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