第四章
[8]前話
「ですがそれでもです」
「苦しみ続けるのは見るに忍びないからこそ」
「毎日喰われるのです」
睦事を楽しんでいてもその報いを受け続けるからだというのだ。
「ですから」
「救われて欲しいですね」
「はい、なりませんか」
「いえ、それこそ正しきお心です」
僧侶は億耳に微笑んで答えた。
「苦しんでいる者は誰でも救われて欲しいと思うのは」
「そうなのですか」
「それこそが御仏の心です」
億耳が思い自分に言うこと、このことこそがというのだ。
「ではこれより」
「お二方の為に」
「経を唱えさせて頂きましょう、そしてですね」
「億耳殿も共に唱えて下さい」
「わかりました」
億耳も頷いてだ、そしてだった。
彼もまた経を唱えて二人の餓鬼達が救われる様に願った、するとその夜にだった。
億耳は夢の中で二人の餓鬼達と会った、それぞれ彼が会った時の姿で。彼等は億耳に深々と頭を下げて言った。
「有り難うございます、これでです」
「我等は救われました」
「もう喰われることもありませぬ」
「まことに有り難うございます」
笑顔で億耳に告げてだ、白い光に包まれて消えていった。億耳は次の日僧侶のところに行きこの輪をした。
すると僧侶は彼に微笑んで言った。
「よいことです、どの様な罪もです」
「救われるべきですね」
「はい、それが誰かが願えば尚更のこと」
「では私が願ったことは」
「昨日も申し上げましたが」
「御仏の心そのものですか」
「はい、ですからこれからも」
億耳に対して言うのだった。
「そのお心を忘れないで下さい」
「わかりました」
億耳は僧侶の言葉に素直に頷いた、そしてこの時からも罪に責め苛まれている人が悔やみ苦しんでいるのなら救われて欲しいと願うのだった。
この話は古くより伝わっているものだ、億耳がそうした国に辿り着き二人の餓鬼達と出会いそして彼等が救われることを願い経を読んでもらい自身も読むことで彼等を救った。仏の力と心の素晴らしさを感じてここに書き残しておくことにする。一人でも多くの人が読んでくれれば幸いである。
夜と昼の餓鬼 完
2018・5・9
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