第一章
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夜と昼の餓鬼
昔沙門億耳という男がいた。
旅の商人をしていたが祖国に帰る途中で仲間達とはぐれてしまい見たことも聞いたこともない国々を歩き回ることになりようやく家に帰ることが出来た、その彼が帰ってからある寺の僧侶にこんな話をした。
「ある夜のことですが」
「はい、夜にですか」
「私はある城に入りました」
即ち街にというのだ、壁に囲まれている街は日本以外の多くの国では城と呼ぶので億耳もこう言ったのである。
「それで夜に宿もなく木の下で寝ていましたが」
「そこで何があったのですか」
「突然目の前に見事な寝台が出てきました」
「寝台がですか」
「はい、そこに急に整った顔と身体の男と女が出て」
そうしてというのだ。
「睦事をはじめたのです」
「それはまた奇怪な」
その話を聞いてだ、僧侶は怪訝な顔になって述べた。
「急に寝台が出て来てそこにですか」
「はい、男と女もです」
「出て来て睦事をはじめたと」
「そうなのです、私はこれは夢かと思い寝ましたが明け方前にはです」
「起きられたのですね」
「実はあまり寝られませんでした」
そうだったとだ、億耳は僧侶に正直に話した。
「睦事が気になり、煩悩のせいで」
「そこは難しいことです」
僧侶は自責を感じた億耳の悔いている顔を見て彼を宥めた。
「修行をしていてもです」
「色欲はですか」
「それと食欲はです」
この二つの欲はというのだ。
「どうも富や位よりもです」
「どうしてもですね」
「断ち難いものです」
「左様ですか」
「はい、その二つは」
「実はこの睦事からです」
億耳は自身を慰めてくれた僧侶にさらに話した。
「私も知った次第です」
「色欲と食欲のことを」
「そのお話になります」
「ではどうなるのでしょうか」
僧侶は内心億耳の言葉に興味を覚えた、それでだった。
億耳にだ、自ら問うた。
「はい、それでは」
「それではですね」
「これからもお話させて頂きます」
「宜しくお願いします」
僧侶も受けた、そしてだった。
億耳はさらに話を続けた、その話はというと。
「明け方近くになっても男tお女は睦事をしておりました」
「一晩中ですか」
「そうしていました、ですが夜が明けますと」
その時になると、というと。
「女も寝台も消えたのです」
「そうだったのですか」
「そしてその代わりに見るからに餓えた狗達が出て」
そうしてというのだ。
「一人残った男を囲み貪り食ってしまいました」
「今度は狗が出たのですか」
「はい、男は食われて骨しか残りませんでした」
そうなってしまったというのだ。
「そして死んだと思い墓を掘り供養しました、ですが骨を埋めたところでです」
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