第七章
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「決めます」
「左様ですか」
「そうされますか」
「はい、そのうえで」
こう答えてだ、そしてだった。
片平はまずは昌枝と会った、そうして彼女に問うた。
「噂のことですが」
「はい」
昌枝は静かに応えた、二人で屋敷の茶室で茶を飲みつつ話していた。
「彼とのことですね」
「真実ですね」
「そうです」
昌枝は片平をじっと見据えて答えた。
「全て」
「そうですか」
「はい、私は勇吉さんのことをです」
「どう思っておられますか」
「愛しています」
これが昌枝の返事だった。
「心から」
「そのお言葉は真実ですね」
「偽りはありません」
穏やかな感じで整った顔だ、声もその顔と同じものだ。
だがその顔と声を今は真剣なものにさせてそうして片平を見据えて言ってきていた。
「私は」
「心からですか」
「そうです、確かに私は宮田家の妻です」
「そのお立場があろうとも」
「主人のことはあります、ですが」
「はい、先代は愛しておられますか」
「愛しています」
今もとだ、昌枝は答えた。
「ですが主人に死の床で言われもしました」
「何とでしょうか」
「自分が死んで三年、それが過ぎれば」
「その時にはですか」
「若し私が愛する人がいれば」
「その人とですね」
「再婚してもいいと」
そう言われたというのだ。
「ですから三年が過ぎれば」
「相手の方と」
「再婚したいと考えています」
「それではです」
片平はまだ自分の言葉を伝えなかった、そしてだった。
昌枝に対してだ、彼もまた彼女と向かい合ってそのうえで尋ねた。
「先代のお言葉は文章としてあるでしょうか」
「はい、私が持っています」
「それを私に渡してくれますか」
後見人である自分にとだ、片平は求めた。
「そうしてくれますか」
「わかりました」
こうしてだった、片平は昌枝の言葉を聞いて彼女から先代の遺言を書いた文章を受け取った。その後で先代の書き残した他の文章と筆跡鑑定もしたが。
間違いなかった、このことも確認してだった。
彼は今度は勇吉と会った、彼とは密かに街の料亭に呼んでそこで話をした。
単刀直入にだ、彼は勇吉に尋ねた。
「君は奥様のことをどう思っている」
「まさか」
「そのまさかだ」
正面から堂々と聞いた、そのことを。
「私も噂は聞いている、それでだ」
「今日ですね」
「ここで聞いたのだ」
そうだと言うのだった。
「君を呼んでな」
「やはりそうですか」
「君も察していたな」
「奥様とのことは噂になっていることはです」
「君自身わかっていたな」
「はい、先代には申し訳ないと思っていますが」
妻であった人との交際、それはというのだ。
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