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猫鬼
第五章
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「陀は政を歪めて民を害していますか」
「政をか」
「はい、確かに許されぬ悪事ですがそうではありませんね」
「それはそうだが」
「むしろ取り締まるのは左道自体であり」
「あの者はか」
「そうです、私と楊氏の姉だけのことです」
 二人だけのことだというのだ。
「ですからここはあえて」
「許せというのか」
「その様にお願いします」
 三日断食しそのうえで皇帝に言うのだった、皇帝も他ならぬ呪殺されかけた者しかも常に自分を助けてくれている皇后の言葉なのでだ。
 独孤陀の罪一等を減じた、それでだ。
 猫鬼をはじめとする蟲毒の左道自体を徹底的に禁じ取り締まることにした。だがこの事件のすぐ後でだ。
 独孤陀は死んでしまった、皇帝はこのことに対して皇后に問うた。
「あの者は死んだが」
「はい、死罪にはなりませんでしたが」
「急に死んだが何故だと思うか」
「それは呪術を使ったからでしょう」
 皇后は弟の死を悼みつつも皇帝に冷静に答えた。
「その為にです」
「あの様にか」
「急に死んだのでしょう」
「人を呪えばだな」
「穴二つといいますね」
「そうだな、ああした術を使えばか」
「はい、あの様にです」
「その呪いを自分も受けてか」
「そうしてです」
「死んだか」
「そうかと。確かに私は弟の死はとお願いしましたが」 
 しかしとだ、皇后は整っているが気の強そうな顔で威厳に満ちた顔の皇帝に話した。
「しかしです」
「それでもだな」
「左道の報いまではです」
「どうしようもないか」
「やがてこうなるとは考えていましたが」
「左道を使えばか」
「はい、ですが」 
 それでもというのだった。
「あの様にすぐにはです」
「報いを受けるとは思わなかったか」
「そうでした、ですが左道は」
「うむ、あの者の様にな」
「使えばです」
「それがやがて自分に返ってくるな」
「そうしたものかと」
 こう皇帝に言うのだった。
「ですからああした邪な術は」
「これからも厳しく禁じていかねばな」
 皇帝は皇后の言葉に強い表情になり頷いた、そうして以後天下に猫鬼をはじめとした邪な術を使うことを厳しく禁じたのだった。
 中国隋代は猫鬼という蟲毒の術が流行したことで知られている、この独孤陀の話は史書にも書かれており事実であったことは確かだ。隋ではこの独孤陀以降も猫鬼の邪法を使う者が多く出て隋朝は厳しく取り締まり多くの者が死罪にもなっていて皇族すら連座している。人を呪えば穴二つというがそれでも憎い相手を殺したり富を奪ってでも手に入れたいと思うものであろうか。人というものの欲深さと愚かさについての話にもなるであろうか。そう考えると人間の業の深さに苦いものを感じずにはいられない。


猫鬼   完


     
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