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誰も知らない
第三章
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「だからこのことはな」
「その時になればか」
「聞けばいい、今は充分に言ったではないか」
「おなごがおるとだな」
「ならば次はな」
「総司が言うべき時にか」
「我等で聞こう、総司もそれでよいな」
 近藤は沖田に親し気な顔を向けて問うた。
「それで」
「有り難きお気遣い、それでは」
「その時が来ればな」
「お二人にお話致します」
 沖田は近藤そして土方に約束した、この時はこれで終わった。だがその次の機会は都どころか日本の状況が次々と変わり。
 沖田が言う機会なくだ、新選組は都から去りそうして近藤も土方も病の床についた沖田と別れることになった、近藤は床に伏せている沖田に土方と共に言った。
「総司、済まぬがな」
「はい、これで」
「若し縁があればな」
 それがあればとだ、近藤は願いながら沖田に話した。
「また会おう、そしてな」
「その時は」
「三人で飲もう」
「そうしましょう、必ず」
「剣を振るってな」
「稽古ですね」
「それもしようぞ」
 こう言うのだった、あえて親しく。
「必ずな」
「そうですね、ではその時私はお話します」
「話とな」
「はい、あのおなごのことを」
 沖田から言ったのだった。
「お話します」
「そうしてくれるか」
「はい、ですから」
「必ずな」
「また会いましょう」
「その病必ず治る」
 土方は沖田に鬼の副長と言われている顔とは全く違う顔を見せてそのうえで沖田に対して言った。
「だからな」
「はい、また三人で飲んで稽古をして」
「おなごのこともな」
「お話致します」
「待っておるぞ、その時を」
「そうして下さい、私も立てる様になれば」
 沖田はそのつもりだった、実際に。それで二人に今言ったのだ。
「その時は追い掛けますので」
「そうしてか」
「また共に戦うか」
「そうしましょう、必ず。勝って飲んで稽古をしておなごのことをお話します」
 沖田は約束した、だが。
 三人はこれが永遠の別れとなった、近藤は捕まり首を刎ねられ土方は五稜郭で死に沖田もだった。
 労咳で死んだ、そうしてだった。
 沖田が会っていた女が誰だったのか、このことを聞いた者は誰もおらず当然知っている者もいないままに終わった。
 沖田総司のこの逸話は知る者は知るといったものであろうか、知る者もそうしたもので彼がどういった女性のところに通っていたかは今では知る術はない。だが新選組でも随一の剣士であった彼にもそうしたロマンスがあったのかとそこに物語を感じる人も多いだろう。歴史には多くの隠れた物語があるが沖田のこの話もそれになる。こう考えると思い深いと感じここに書き残しておくことにした。歴史とは人に想像も促すものであることの証左の一つとして。


誰も知らない   完



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