第一章
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誰も知らない
京の都にいる者で新選組一番隊隊長沖田総司を知らぬ者はいない。剣客揃いの新選組の中でもとりわけ剣の腕が秀でている者として。
その彼が時々ふらりと一人何処かに行く、このことについて新選組の局長である近藤勇は副長の土方歳三に言った。
「総司は時々何処かに行くな」
「そうだな」
土方はその整った鋭い目を持っている顔で近藤のエラが目立つ男らしい顔に応えた。
「昨日も行っていたな」
「遊郭にでも行っているのか?」
近藤は豆腐を食いつつ土方に言った。
「そうなのか」
「いや、それはどうも違うらしい」
土方は己の杯で酒を飲みつつ近藤に答えた。
「どうやらな」
「何っ、遊郭ではないのか」
「ああ、俺もよく遊郭に行くが」
それでもと言う土方だった。
「総司が遊郭に来ているという話はな」
「ないか」
「飲んでいるらしいが」
それでもというのだ。
「遊郭ではな」
「飲んでいないか」
「どうもそうらしい」
「何だ、では何処に行っているのだ」
「それは俺もわからん。ただ総司の腕ならな」
新選組で随一の彼の剣の腕ならというのだ。
「勤皇の連中が幾らいてもな」
「むしろ連中の方が逃げていくな」
「だから心配はしていないが」
一人で出歩いてもというのだ。
「しかしな」
「気にはなるな」
「あいつとは長い付き合いだ」
だからと答えた近藤だった。
「それこそ都に出る前からだろう」
「ああ、わし等三人はな」
土方も近藤に真面目な顔で返す。
「片田舎からずっとだった」
「三人一緒だったからな」
「それだけにだな」
「あいつは特別だ」
新選組の隊士の中でもというのだ。
「本当にな、それでだ」
「余計に心配だな」
「あいつに限ってないと思うが隊の規則を破っていないか」
「そのこともだな」
「少し気になる時もある」
新選組局長としてだ、この場合の心配は。
「どうしてもな」
「そうだな、しかしだ」
「今はか」
「そうだ、ここはだ」
「あいつが一人で何処に行っているかな」
「確かめたい」
是非にと言うのだった。
「そうしたい、それでだが」
「今度だな」
「明日の夜でもいい、久し振りに三人水入らずになってな」
「飲んでそうしてな」
「話すか」
「そうだな、腹を割ってな」
「あいつと話をしよう」
「わし等の仲だしな」
新選組結成前からの付き合いだ、それだけにというのだ。
こうしてだった、近藤と土方は沖田を呼んでそのうえで三人で飲みつつ話をすることにした。新選組の局長の部屋で三人で豆腐を囲んで飲みながら話をすることにした、すると。
近藤は少し飲んでから彼らしく実直に沖田の白く切れ長の瞳がある顔を見つつ言った
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