第三章
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「往来の中で財布を盗む、しかしな」
「それでもですな」
「それ以外の盗人は昼には働かぬ」
「夜に」
「人目を避ける為にな。だからな」
「大黒屋も五人男も」
「夜だ、五人男の影はあるか」
大岡は忍の者に彼等のことも問うた。
「どうだったか」
「何も」
「そうか、しかしな」
「大黒屋をですな」
「見ておろう、あの者達が盗みに入るのは」
それが何時か、大岡は読んでいた。
「大黒屋が動く時」
「店から阿片を運び出す時ですか」
「その時に動く」
大岡ははっきりと言い切った。
「店が阿片のことで必死になっておってな」
「その他のことに気が回っておらぬ」
「その時にこそな」
まさにというのだ。
「店に入るぞ」
「では」
「うむ、大黒屋が何時店から阿片を出すかが問題だが」
「それは何時でしょうか」
「明日にさせる」
大岡は同心に目を光らせて話した。
「店の前で何処となく話せ」
「何処となくといいますと」
「明日に奉行所が入るとな」
その様にというのだ。
「話を流すのだ、そうすればな」
「大黒屋はその噂話に驚いて」
「その夜に阿片を運び出す」
そうするというのだ。
「そしてな」
「この噂話を五人男も聞いて」
「その夜に盗みを働く」
そう動くというのだ。
「だからな」
「この噂をですな」
「すぐに流すのだ」
まさに今日というのだ。
「そして我等もな」
「今夜ですな」
「動くぞ」
こう言ってだ、大岡は大黒屋の前で南町奉行所が明日吟味に来るという噂を流した、その噂に店の者達は何も知らぬ素振りを見せていたが目の色が瞬時に変わった。
そして何処となくいた町人達の中でもだった。
ほんの一瞬でも眉を動かした者達がいた、密かに店の周りにいて色々見張っていた奉行所の者達は店の者達が変わったことには気付いたが町人達のことには気付かなかった。だがその夜にだった。
大黒屋が動いた、店の者達は手分けして阿片が入った木箱を全て集めてそうしてそれを店から台八車で運び出した、この時に店の主が自ら言っていた。
「いいな、阿片はすぐにな」
「はい、波止場からですね」
「船に積み込んで」
「それで店の秘密のもの置き場に入れる」
「そうしますね」
「そうだ、奉行所は明日来るんだ」
それならというのだ。
「今のうちにだよ」
「はい、車に全部運び入れましたし」
「後はですね」
「波止場から船に乗せて」
「そうして」
「ことなきを得るんだよ」
そうしようというのだ、こう話してだった。
店の主は阿片を運ばせようとした、店の者は誰もが阿片に目も頭も向けていて店のことには気を向けてはいなかった。
だから店に五人の者達が近寄っているのに気付かなかった、だがその五
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