177部分:第十二話 朝まだきにその三
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第十二話 朝まだきにその三
「パルジファルなのだ」
「だからこそあの方をですか」
「オペラにされる」
「聖杯城に王にされる」
「そうされますか」
「そうだ。パルジファルも作る」
ワーグナーは王を見ながら話していく。その目にだ。
「そうする。あの地でな」
「わかりました。それでは」
「私達もまた」
二人はこう言ってだ。ワーグナーを見送ったのだった。彼は確かに落胆していた。しかしその心は前に進んでいた。彼はだった。
だが王はだ。ワーグナーがいなくなりだ。明らかに意気消沈してだ。暗い顔で日々を送っていた。
宮廷においてもだ。彼は暗鬱な顔でこう言うのであった。
「何もかもが嫌になる」
こう一人呟くのだった。
「何も見たくないし何もしたくはない」
「陛下、ですが」
「それは」
「わかっている。王としての職務はだ」
そのことはだ。忘れていなかった。まだ。
「果たす」
「はい、プロイセンですが」
政治の話になった。外交である。
「シュレスヴィヒ、ホルシュタイン問題においてです」
「オーストリアと話し合いに入っているか」
「戦いは避けられるかも知れません」
「いや、それはない」
王は静かに否定の言葉を出した。
「プロイセンは必ず戦うだろう」
「必ずですか」
「そうだ。何としてもだ」
こう言うのであった。
「ビスマルク卿はそうされる」
「では今回の動きは」
「罠だ」
言った。一言でだ。
「間違いなくだ。罠だ」
「オーストリアに対しての」
「既に周辺の状況は整ってきている」
王には見えていた。今の欧州全体の状況が。
「オーストリアは孤立し二国だけの状況となっている」
「オーストリアとプロイセン」
「この二国だけとなった」
「では。後はですか」
「戦いですか」
「それだけですか」
「全ては計算の中にあるのだ」
王はだ。そう話すのだった。
「ビスマルク卿のな」
「あの方のですか」
「プロイセンの」
「あの方が全てですか」
「考えてそうしてですか」
「あの方が目指されるのは統一したドイツだ」
こう話す。王はビスマルクが何を目指しているのかわかっていた。
そしてだ。さらに話すのだった。
「それを誕生させることだ」
「プロイセン主導のドイツですね」
「小ドイツ主義による」
「それをですね」
「その為にプロイセンがどうしてもしなければならないことがある」
王は述べた。さらにだった。
「ドイツの経済的な統合とだ」
「関税同盟ですね」
「あの」
「政治的な統合と経済的な統合は不可分だ」
王は既にそのこともわかっていた。国家の統合は言えばそれでできるのではない。経済的な統合もまただ。必要だということがだ。
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