第四章
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「あそこに行くのはよくないな」
「そうですよね、じゃあ」
「ああ、大学に戻るか」
講義がなくて来ていたがそれも終わってというのだ、そしてだった。
富阪は後輩と共に大学に戻った、その後日に。
彼は寮でだ、小坂にその坂の話をまたした。その時に小坂は富阪に話した。
「あの坂の一番上は今はいい家があるだろ」
「ああ、あったな」
「あそこは今は普通に医者をやってるらしいがな」
「それであんないい家だったんだな」
「昔はもぐりだったらしい」
「もぐり?」
「先代さんかその前がもぐりでな」
つまり正式に医師免許を持っておらずそのうえで医者をしていたというのだ。
「それも堕胎をしていたらしい」
「堕胎ですか」
「ああ、堕胎をしてな」
それでというのだ。
「中には中の子供だけでなく母親まで死んだってことがあったらしい」
「じゃあわしが見たのは」
「多分な」
「その時に死んだ女か」
「そうだろうな、どういった経緯でおろそうとしたのかはわからないが」
「子供も産めないで自分も死んでか」
「きさんが見た風だったんだろう」
恨みに満ちた顔で睨んでいたというのだ。
「そうだったのだろう」
「そうだったのか」
「そうだ、そしてだ」
こうも言った小坂だった。
「あそこにはああしてな」
「出るんだな」
「時々な」
「時々か」
「そうだ、出て来る女はその都度変わるという」
富阪が見たあの女の他の女の霊も出て来るというのだ。
「それだけ多くの女が死んだということか」
「そうだろうな」
「嫌な話だな、しかし関係のない筈のわしを随分恨みと憎しみに満ちた目で見ていたが」
「女にそうさせたことはないな」
「あるものか、女遊びはしてもそうした店だ」
そこで遊ぶことはあるがというのだ。
「しかしな」
「それでもだな」
「ああ、そうしたことをさせたことはない」
女を妊娠させたことも中絶させたこともというのだ。
「一度もな」
「それでも睨まれたか」
「それがわからないがな」
「それはあれじゃないのか」
小坂は自分の前にいる富阪に冷静な顔で答えた。
「きさんがそうしたことをしそうと思ってな」
「あの女の主観でか」
「そう思ってだ」
「わしを睨んでいたのか」
「そうかもな」
「そうか、しかし嫌な話だな」
富阪は小坂のその話を聞いてしみじみとした口調で述べた。
「子をおろしてその中で自分も死んで今も憎しみに捉われてか」
「ずっとあそこにいるとはか」
「嫌な話だ、本当にな」
富阪は小坂に対して言った、そうしてこの日は二人で人のことについて神妙な顔を色々と話をした。
この坂は後に堕胎坂と仇名される様になった、その由来は富阪が見たことに由来していることは言うまでもない。
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