食事への誘い
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に開く。
しおり代わりのそれに、視線を向けて、再び畳んだ。
静かに読書机の上に置けば、リアナの脇を通って階下へと降りていく。
父親に似て、相変わらず感情に乏しい可愛い子だった。
ワンピースの裾を揺らして歩いていく姿を見ながら、それでもリアナは思い出す。
士官学校に入校するといった娘の言葉を。
当初は――士官学校に入っても、いずれは娘の才能を持て余して――あるいは、彼女自身がその愚さに気づいて、すぐに卒業前に辞めることになると楽観していた。
だが、リアナの予想に反して、どうやらライナは卒業後も務める気でいるようだ。
士官学校でどんな経験をしたかは知らない。
でも、リアナも知っていることがある。
おそらくは――今後戦争は厳しいものになる。
それを軍人や政治家よりも、リアナはよく理解していた。
多くの人が死に、リアナの会社でも人材不足という形でそれが発現している。
このままではじり貧―−商売でいうなれば、自転車操業と呼ぶのだろう。
いずれは破綻する。
そんな危険な場所に娘を置いておくわけにはいかない。
そのためなら、娘の意思を無視して見合いをさせるし、それに。
――気づいたら、嫌われるかしらね。
わずかな本音がリアナの顔によぎった。
リアナがアロンソに軍人の相手を紹介させるように言ったのは、何もリアナの商売に影響があるだけが原因の話ではなかった。
先ほどリアナがライナに話をした理由が半分。
即ち父親の顔を立てるとともに、未来の上官に対しては、いくらライナでも厳しい態度はとれないであろうということ。
そしてもう一つ。
ライナほどの顔立ちであれば、誰もが喜んで彼女を誘うであろう。
何よりも父親は大佐になることが決まっている優良株であり、母親は大企業のトップだ。
いくらライナが嫌がったとしても、誘いは止まらぬであろうし、そうなれば、ライナは軍に嫌気がさすのではないか。
ある意味、ライナもアロンソも両者を利用するような計画ではあったが、例え何と言われようとも辞めようとは思わなかった。
大切な娘を守るためであるならば、悪い評価など今更のことだから。
でも。
「例え嫌ったとしても――一緒にはいてほしいな」
小さく漏れた本音は、か細く小さく。
嫌われたっていい。
でも、一人になるのは怖い。
そう呟きかけた言葉に、小さく頭を振って、前を見た。
考えている暇はない。
既に客人をアロンソが連れてきているのだ。
ならば、妻としてもてなさなければならないだろう。
それに――万が一の可能性だが、娘が気に入るということもあるのだから。
そう希望を思いかけて、ないなとリアナは即座に思った。
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