175部分:第十二話 朝まだきにその一
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第十二話 朝まだきにその一
第十二話 朝まだきに
王がワーグナーと別れざるを得なくなったという話をだ。オーストリア皇后エリザベートは旅先で知った。彼女はこの時代も旅をしていたのだ。
そしてそれを聞いてだ。悲しい顔でこう従者に漏らした。
「これであの方は変わってしまわれます」
「バイエルン王がですか」
「はい。この世を厭われるようになるでしょう」
こうだ。従者に対して漏らす。
「全ては悪い結果になるでしょう」
「ですが陛下」
「彼はです」
「あのワーグナーという者は」
従者達は眉を顰めさせてだ。皇后に対して言った。
「浪費家でしかも女癖が悪く」
「そうしたことを考えればです」
「やはり。ああなったことは」
「自業自得では?」
「そうです」
彼等は常識から考えて話す。彼等が見ている常識からだ。
「バイエルンの者達の怒りも当然です」
「ましてや。王の御傍にいるとなると」
「誰もが遠ざけようと思うでしょう」
「ですから当然です」
こう皇后に話していく。しかしであった。
皇后はだ。その彼等に対してだ。澄んだ、それでいて悲しさをたたえた瞳でだ。告げたのであった。
「確かにワーグナーという人物に問題はあります」
「それも非常にです」
「到底放置できないまでに」
「しかし。あの方が見ていたものは違うのです」
言うのはこのことだった。
「芸術だったのです」
「ワーグナー氏のですか?」
「それだというのですか」
「芸術だと」
「そうです。あの方は芸術に魅せられそれから離れることはできなくなっています」
それがバイエルン王だというのだ。そしてだった。
「あの白鳥の騎士からも」
「ローエングリンですか」
「あのオペラですか」
「そうです。ワーグナー氏のそのオペラです」
まさにそれだというのであった。ローエングリンだと。
「それを生み出したワーグナー氏が傍にいなければ」
「駄目なのですか」
「そうだというのですか」
「しかしそれでは」
「そうです。まるで」
従者達は皇后の言葉から察した。王が抱いているその心は何かとだ。
「恋では?」
「それではないのですか?」
「ワーグナー氏に対する」
「ワーグナー氏ではなくです」
それは違うとだ。皇后は否定した。
「芸術に対して。あの騎士に対して」
「恋をしている」
「そうなのですか」
「それにあの方は気付いていません」
自分でもだ。それはないというのだ。
だがそれでもだった。皇后は話していく。
その遠くを見る目は同じだった。王とだ。その同じ目でだ。彼女は今話していくのだった。王を、同じものを持っている相手をだ。
王はだ。さらにであった。
「御自身が想う相
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