第三章
第28話 暗殺者
[1/4]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「こんにちは。また会えましたね」
――なぜこいつがここに。
その丁寧な口調も、恐怖にしか感じなかった。
暗殺者の男の手には、俺の首に当てられていたであろう短剣。
男は、自分から見て出入口側に立っている。
戦わずに逃げるのは不可能だ。
だが、クロはいない。カイルもいない。
一人で戦おうにも……この男はおそらく、戦闘員として専門の訓練を受けているだろう。
さっきも、背後を取られていたのに気配がまったくしなかった。俺の勝てる相手ではない。
どうする……。
俺はこの国の人間ではない。この国の中枢とは無関係だ。この前はたまたま国王に同行していただけだ――そう釈明して、命乞いすれば。
もしかすれば、この場は何とか…………
……なるはずはない。
この男は、遺跡で大一番の仕事に失敗した。それは決して小さな失敗ではなかったはずだ。原因はもちろん、俺にある。
そして今日、こちらが一人になるのを見計らって登場した。
逆恨みでの復讐。それくらいしか理由が見当たらない。
――やはり玉砕覚悟で戦うしかない。
震えの隠せない手で、腰の剣を抜こうとした。
それを見た男は、閉じていた口を開け、やや慌てたようなそぶりを見せた。
「落ち着いてください。僕は今すぐあなたと戦うつもりはありません」
そう言うと、足元に短剣を置き、両手を上げて戦意のないことを示してきた。
逆光なので表情はよく読み取れないが、声の調子は鋭くない。
「どういうことだ?」
「今日は、あなたにお願いがあって来ました」
――暗殺者が、俺と交渉?
意味があるのだろうか。俺は政治家でもないし軍人でもない。
「お願い? 俺は民間人だぞ」
「もちろん知っています。そのうえでのお願いです」
「……油断させておいて、拳銃で殺す気か」
「拳銃は持ってきていません」
「信用できない」
仕方ないですね――。男はそう言うと、ジャケットを脱いで床に置き、上半身はTシャツ一枚の恰好になった。
そしてズボンのポケットを引っ張り、外に出した。
確かに、拳銃は持ってきていないようだ。
「…………」
「どうですか? これで信用していただけましたね」
相手は丸腰だ。
俺はまだ帯剣している。
今、剣を抜いてこちらから仕掛ければ、逃げられるだろうか?
――いや、ダメだ。
気配を察知されて、相手が短剣を拾うほうが速いだろう。
次のチャンスを待ったほうが……。
だが、次のチャンスなんて訪れるのだろうか。
やはり無理してでもここで……。
「では、あなたも剣を置いていただけると――」
「ぅぇっ?」
……しまった。裏返った声が出てしまった。
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ