174部分:第十一話 企み深い昼その十六
[8]前話 [2]次話
第十一話 企み深い昼その十六
「だからだ。私はあの方の力になる」
「そうされますか」
「プロイセンとしても」
「プロテスタントもカトリックもここでは問題にならない」
プロイセンはプロテスタントの国だ。それに対してバイエルンはカトリックである。その宗教的な対立もドイツ統一にとって問題になっているのだ。
ドイツの宗教対立、欧州全体に言えることだがそれはそのまま深刻な問題になってしまっている。ユグノー戦争や三十年戦争の頃から変わらないことだ。血生臭い宗教戦争にこそならないがだ。それでもなのだ。
だがそれはだ。このことには問題にならないというのだ。
「あの方は至宝なのだからな」
「ドイツのですね」
「そこまでの方だからこそ」
「傷つけてはならなかったのだ」
言葉は過去形になっていた。
「決してな」
「しかしバイエルンの者達はそれをしてしまった」
「遂に」
「彼等もあの方を思ってのことなのだろう」
ビスマルクはそれはいいとした。
「だが」
「だが、ですか」
「それでもですか」
「世の中というものは複雑だ」
ビスマルクはここではその世の中を知る者として話した。
「善意だけで結果がよくなるものではない」
「善意だけではですか」
「それだけではなのですか」
「そうだ、善意だけでよくなればどれだけいいものか」
こう話すのだった。その言葉には哲学の色が入っていた。
「だが。そうはならない」
「だからですか」
「今のバイエルンはですか」
「その結果は」
「よいものにはならない」
それはわかるのだった。ビスマルクにはだ。
そしてだ。そのよくならないものとは何か。彼はそのことも話した。
「あの方にとっては」
「残念なことですね、非常に」
「ドイツにとって」
「確かにプロイセンとバイエルンは対立することが多い」
北と南、東と西、そしてカトリックとプロテスタント。両国の間柄は決して順調にいくものではない。しかしそれでもだと。ビスマルクは思うのだった。
「だがあの方はそれでもだ」
「ドイツの宝だからこそ」
「それが傷つけられるのは」
「残念な話だ。至宝は今傷つけられた」
彼はこう言った。
「そしてその傷は。癒すことが困難だろう」
王の行く末を真剣に案じるのだった。辛辣な彼にしてみてもだ。王がワーグナーと別れたことは悲しいことだった。王のことを思えばこそ。
第十一話 完
2011・2・18
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ