03.過去語
ー双子と王様ー
過去語ー双子と王様ー 序章
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――――――五年前。
冷たく、乾いた風が少女の髪を揺らす。
此処は数分前まではビルが立ち並び、沢山の者が生活していた。
店を営む者、買い物を楽しむ者、昼間から飲んだくれる者。様々な者が街を行き交っていて、街は何時もと変わらず賑やかだった。
だが、数分前、其れは一人の人間に因って壊された。
突如現れた禍々しい赤を為た膜が、辺りでは最大の大きさを誇る此の街全体を、膜は一瞬の内に包み込んだ。
其の時点で、数百の者が、膜に因って躰を切断され、死んだ。
膜は段々と中心へ向かって集束為ていく。
膜の内側、つまり街は焼ける様な熱さに襲われ、膜の近くにある物が燃え始める。
此れで、更に数百の者が火傷を負ったり、火事に巻き込まれたりして死んだ。
膜が建物を飲み込み、街を飲み込む。後には灰も残らない。
溶けた物が街を流れる。火山から流出した溶岩の様に、段々と街の中心へと流れていく。
生きている者が、一斉に街の中心へと逃げる。
逃げ遅れた者が膜に飲み込まれ、消滅する。
生き残っている者も、皮膚が溶け、躰が燃え始める。
そして、十秒もしない内に、此の街は膜に飲み込まれ、沢山の者と共に完全に消滅した。
広範囲を一瞬にして灰も残らない土地へと変えた少女は、特徴的な白い外套を翻し、消滅の中心から去って行く。
外套の胸に刻まれる紋章、そして最近では珍しくなった黒髪、光の無い瞳。
彼女、黒華琴葉は、白猫本部へと帰還為るため、ゆっくりと消滅した土地を歩いた。
「……此方、黒華琴葉。"鬼の街を占拠しました"。帰還します」
暫くすると、街は数分前と変わらない姿で現れた。
だが、存在していた者は一人として、現れることは無かった。
「ふぁ〜」大きく伸びをしつつ、欠伸をする琴葉。「今日も御苦労様ですー、私」
ぼそぼそと自画自賛をする琴葉は、時々立ち止まって大袈裟に溜息を吐く。眉間を指でとんとんと軽く叩いては、うーと低く唸る。肩までの長さで切り揃えられた髪をわしゃわしゃと手で乱しては、あーと潰れた声を出す。
「今日も沢山殺しましたね−、私。そろそろ、此の人外駆逐部隊の長何て、止めたいんですけどねぇ。そんな事言ったら怒られるから言いませんけどー」
そんな、大きな独り言を言いながら去って行く小さな背中を、ジッと見つめる影が二つあった。
「ねぇ、ユリ。彼奴が仲間を殺したの?」
「そうだよ、リサ。彼奴が仲間を殺したの」
一つは金色の髪を低い位置に束ね、顔の右側に垂らしている少女。長い前髪の奥から覗く瞳の色は、暗い赤。名を、アリサ・フィルスコート。
もう一つは銀色の髪を低い位置に束ね、顔の左側に垂らして
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