170部分:第十一話 企み深い昼その十二
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第十一話 企み深い昼その十二
「あの劇場のこともです」
「私が考えている。私の作品の為の劇場は」
「費用はお任せ下さい」
そのことについても言うのであった。
「全て。御心配なく」
「そうですか。費用もですか」
「芸術の為にその費用がどれだけかかろうがです」
「それも構いませんか」
「戦争に使うより遥かにいいです」
密かにだ。プロイセンに対する反発も見せていた。
「ですから」
「戦争ですか」
「はい、それよりもです」
また言う王だった。
「遥かにです」
「確かに。その通りです」
ワーグナーもだ。王のその言葉に本心から頷いた。そうしてであった。
彼は王に対してだ。さらに言うのであった。
「偉大なるドイツの芸術は不滅です」
「そうです。ハンス=ザックスが言うように」
そのワーグナーのオペラの主人公の言葉である。
「ドイツの芸術は不滅のものになります」
「その為にはですね」
「費用なぞ何の意味があるのでしょうか」
王はその熱い声で語っていく。
「その不滅のものにです」
「そうです。ですから」
「費用のことはお気遣いなく」
こう話すのであった。王のワーグナーへの熱は存在し続けていた。そしてであった。
王はミュンヘンに戻るとすぐにワーグナーに関する一連の醜聞を否定した。そしてそこにはだ。王自身の名前まで存在していた。
それを受けてある程度の沈黙が戻った。しかしであった。
王のその言葉をだ。誰もが信じなかった。
表向きには沈黙した。しかしであった。
「そんな筈がないだろう」
「あの男は山師だ」
「芸術はどうか知らないがな」
それがわからない者もいた。しかしであった。
その人間性や行動についてだ。さらに話されるのだった。
「あの男は下衆だ」
「浪費家だ」
「弟子の妻に手を出す様な男だ」
「しかも図々しいにも程がある」
「態度も尊大だ」
「とんでもない奴ではないか」
彼の芸術とは別の話だからだ。それは止まなかった。
王は彼の芸術を見て動いていた。しかし彼等は彼の人間性や行動を見ていた。その二つの相違がだ。問題をこじれさせてしまっていた。
その為にだ。彼等は話すのであった。
「あの様な男をこれ以上置いておけるか」
「陛下の御傍だけではないぞ」
「ミュンヘンにもだ」
「いや、バイエルン自体にだ」
「置いてはおけない」
「最早これ以上は」
こうしてだった。ワーグナーへの反感はさらに高まった。王の公においての彼の潔白の証明はただ表向きに止めただけになってしまった。
そしてそのうえでだ。ミュンヘンはさらにであった。
ワーグナー排斥の動きが高まりだ。どうしようもなくなってしまった。
それでだ。遂にであった。
首相がだ。満足
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