169部分:第十一話 企み深い昼その十一
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第十一話 企み深い昼その十一
「私が望むのはそのことだ」
「わかりました」
ビューローも静かに頷く。そうしてだった。
王はワーグナーと会い続けた。ミュンヘンから離れてもだ。彼と会う。そうしていた。
保養地の別荘でだ。花火を見ながら王はワーグナーに話した。
「火薬は何の為にあるのか」
「それは戦いの為ではないのですね」
「こうして。美しいものを生み出す為にあるのです」
こう話すのだった。
「それはです」
「はい、その通りです」
ワーグナーもだ。王に対してその考えを述べた。
「あらゆるものはまず美の為に」
「そうですね。科学もまた」
近頃話題になっているその新しい技術についても言及が為された。
「それは同じですね」
「戦争の為ではなく」
「オーストリアとプロイセンの対立もありますが」
このことはだ。ここで止めたのだった。あくまで政治的な話でありだ。芸術家であるワーグナーに話すのはまたいらぬ火種になると判断してだ。
「とにかく戦争はです」
「技術を使う為のものではありませんか」
「はい、それが私の考えです」
こう述べるのであった。
「あくまで。それはです」
「芸術の為にあるものだと」
「私はそれを実行したいのです」
花火の赤や青の輝きを見ながらだった。その夜空の大輪を見つつ。
「貴方の舞台も。それが必要とあらば」
「御力をお貸しして頂けるのですか」
「助けられる者が助けずして」
王はここでは熱さが戻っていた。
「どうするというのでしょうか」
「そう言って頂けますか」
「言葉だけではありません」
王はそれだけで済ませるつもりはなかった。それも確かなことだった。
それでだ。彼はあらためてこんなことも言った。
「私は。今もです」
「今もですか」
「はい、今もです」
ワーグナーに対する時の熱を帯びた口調をそのままにしてであった。彼は目の前にいるその彼だけが潔白という音楽家に対して言うのだった。
「私は公に言いましょう」
「公にとは」
「貴方は潔白です」
それをだ。言うというのである。
「王である私が貴方の潔白を証明すればです」
「それで口さがない者達は」
「はい。言葉を失うでしょう」
少なくともだ。表向きにはというのである。
「ですから。そうさせてもらいましょう」
「有り難うございます」
そしてだった。ワーグナーはその申し出を断らなかった。
それどころかだ。進んで受けるのだった。そうしてであった。
王にだ。満面の笑顔でこう述べた。
「陛下がそうして下さればです」
「周囲もですね」
「はい、静かになります」
こう話すのだった。
「有り難いことです」
「悪質な噂なぞあってはならないものです」
これは確信であった
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