45話:泥沼
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クグラスを傾ける。
「当初は武装モジュールと母船が分離機能を備えていると軍上層部は認識していなかった。わが軍と同等の損害を与えていると認識していたんだ。ところが昨年驚愕の事実が判明した。武装モジュール自体はそこまで装甲が厚くないが、母艦部分はかなりの重装甲で、戦死者は想像以上に少ない。我々は、言ってみればミサイルを破壊するために戦死者を出している状況だった訳だ。武装モジュールは破壊されても後方に予備があるわけだから、大きな損害を受ければパージして付け替えればまた戦力化できる。思い切った戦術だが、我々は見事にそれに乗せられた形になった」
「つまり、わが軍は1000万人を超える戦死者を出しながら、帝国の戦死者は50万人もいかないという予測はやはり正しいという事になるのか......」
私は思わずため息をついてしまった。
「それはかなり希望的な数字だ。厳しく見積もると20万人以下という話もでているよ。頭が痛い事だがね。今回の戦いでは、メンテナンス部隊を先に攻撃できれば活路が見出せるのではないか?という事で、巡航艦を主力にした分艦隊に戦線を迂回させて後方を狙ったわけだが、残念ながらメンテナンス部隊には手厚く制宙戦力が配備されていた。全滅覚悟で突撃すればなんとか出来たかもしれんが、命をかけるには勝算が無さ過ぎた。配置状況を把握できた時点で私は撤退を判断したし、ロボスの方は一か八かで攻撃したが手痛いしっぺ返しを受けたようだな......」
あのシトレが少し暗い雰囲気になっている。先が見えないのは軍でも同じようだ。
「財務委員会に入ったおかげで詳しい財務資料も見る機会があるが、正直フェザーン資本が無ければ同盟政府はすでに財務破綻している状況だ。なんとか次世代艦の開発・更新費用をひねり出せればと思ったのだが、何とかするには遺族年金を減らすか増税しかない。そんな事をすれば議席を失うだろう。誰もやりたがらないし、議題にも出せない。おまけにこの数年はフェザーンマルク建ての借款が増えている。財務状況は転がり落ちるように悪くなっているよ」
「その話は軍上層部でも認識しているが、見て見ぬふりといったところだな。実際口を出せる話でもない。泥沼の消耗戦に引きずり込むのが帝国の意図なのだろう。おそらくだが、人的資源に狙いを定めて社会を疲弊させようとしているのだと思う。これは私の私見だがね。シュタイエルマルク元帥の意向なのか。彼の弟子世代の発案なのかはわからないが、戦場で負けても戦争で勝てるようにしたわけだな。これは戦術家の発想ではない。どちらかというと経済的な発想だ。思いついてしまえば簡単な話だが、軍部にそれを納得させて、実行させた所に凄味を感じるよ」
そこで、またロックグラスを傾けて、バーテンダーに視線を送り、お代わりを促した。私もハイボール
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