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永遠の謎
156部分:第十話 心の波その十四
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第十話 心の波その十四

「彼の魂も不滅なのだ」
「死してもですか」
「それでも尚」
「そうなのだ。それは不滅なのだ」
 こうだ。静かな熱を帯びた声で話していく。
「だからこそ彼は死を恐れなかった」
「その夜の世界で」
「死を恐れずにですか」
「イゾルデとの愛を願った」
「そうだったのですか」
「その通りだ。そしてだ」
 言葉を続ける。さらにだった。
「前にも言ったが」
「はい、何でしょうか」
「その御言葉は」
「トリスタンはトリスタンであるだけではない」
 こう話す。彼はただトリスタンというだけではないとだ。さらにあるというのである。
「ローエングリンでありタンホイザーでもある」
「一つの魂だと」
「そうだと言われますか」
「ヴァルターでもありジークムントでもある」
 今ワーグナーが生み出そうとしている作品の主人公達だ。
「そしてジークフリートでもある」
「ニーベルングの指輪の主人公」
「彼もですか」
「トリスタンと同じ魂なのですか」
「全て」
「そうだ、全て同じ魂なのだ」
 こう話すのだった。周りに対して。
「私はそのトリスタンとしての魂を観た」
「彼のですね」
「その魂を」
「さらに観ていく」
 さらに遠くを見ていた。これまで以上に。
「全てをだ」
「そういえば陛下、ワーグナー氏の作曲ですが」
「トリスタンは上演できました」
 周りの話が変わった。その魂を生み出すワーグナーについての話になった。それを話しながらだ。王のその整った顔を見るのだった。
 王もだ。彼等の話を聞いている。表情を変えずに。
「ですが他の作品はです」
「まだ作曲中です」
「中々進みません」
「果たして上演できるのでしょうか」
「焦りか」
 王は彼等が何を言いたいのか悟ってそのうえで述べた。
「私が焦ると。そう思うか」
「はい、御言葉ですが」
「焦りは感じておられますか」
「それは」
「如何でしょうか」
「その通りだ」
 王はだ。それを認めた。淡々とした言葉だがそれでもだ。彼は焦っていると。その現実を認めて言葉に出してみせたのであった。
 そのうえでだ。彼自身の口で言った。
「彼の芸術は私の手中にあるが」
「それでもですか」
「焦りを感じておられますか」
「それでも」
「作るのは彼だ」
 ワーグナーであった。その彼だ。
「彼が作る」
「陛下は」
「それを手中に収めておられますか」
「そうだ、それでもだ」
 王が作るのではない。それが問題なのだった。
「私はその芸術を愛でるだけだ」
「だからこそですか」
「焦られる」
「そうだというのですか」
「陛下は」
「そうだ、早く観たいものだ」
 王の言葉に熱が戻った。
「彼の芸術をだ。さらに」

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