魔王山
[2/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
れなかった。
だから、数日前の剣の稽古の時、いつも使っている短剣ではなく、以前、まともに振るえなかったショートソードを持っていったのである。
そして、いつもの短剣と変わらぬ動作でそれを振るい、稽古を最後までこなして見せた。
褒めてほしかった。驚いてほしかった。
よくやった、とその一言が欲しかっただけなのだ。
だが、その時の彼は、
「よし、明日からの訓練では、それを使え」
いつもと変わらぬ口調で、ただそう言っただけだった。
悔しかった。
彼に、どうしても認められたかった。認めさせたかった。
だから私は、たった1人でこの山──魔王山に来たのだ。
この山には、一週間ほど前に、一度、挑んでいた。
その時は、ネモに連れられ、訓練の一環として、ここを登ったのだ。
私は、山の中腹辺りまで登ったところで、音を上げた。
ネモも、始めから頂上まで行く気はなかったようで、あっさり引き返すことを決めた。
「俺自身も、仲間数人を伴って登り切ったことがあるだけで、1人で頂上まで辿り着いたことはない」
彼はそう言った。
この山に来るのは、それ以来である。
昨日、私はネモに向かって、1人で魔王山に挑みたいと願い出た。
ネモは、最初は、その提案に中々首を縦に振らなかったが、しつこく食い下がる私に、最終的には折れた。
「無理だと思ったら、すぐ引き返せ。日没までには、必ず麓に戻るようにしろ」
彼は、そう釘を刺した。
この魔王山の頂上には、辿り着いた者達が、証として名前を刻んだ大岩があるらしいと聞いている。
ネモは、私が頂上に辿り着けるなどと、微塵も考えていないだろう。
私が1人で、頂上の岩に名前を刻んで来れば、彼を驚かせること、彼の鼻を明かすことはできると考えた。
もし、彼がそれを信じなければ、後に頂上まで引っ張って行って、見せつけてやればいい。
麓から山を見上げ、私はそう思った。
私は、岩肌の山道を速足で登っていった。
ここは、山としては、それほど大きいものではなく、標高だけで見れば、一日で頂上まで辿り着けるものだった。
だが、多くの難所が、簡単にそれをさせてくれない。
今も、まだ麓からそう離れていないというのに、早速、霧が濃くなってきていた。
私の手元には、ネモから受け取ったコンパスがある。
頂上に近づくほど激しい霧に覆われている魔王山に挑むには、必須の道具だった。
この山も、魔王領周辺の地形と同じく、殆どが岩肌で、木々が少ない。
それゆえ、空気が薄く、平地よりも遥かに早く体力を奪われるのだ。
前回の中腹辺りまで辿り着いた時は、表面上は、いつもの訓練のように、激しい鍛錬を行っているわけでもないのに、あっという間に息が上がっていたことに驚いた。
なるほど
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ