154部分:第十話 心の波その十二
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失うに至る傷を負っても生を願わず死を望む。そうしてだった。
イゾルデが来た時にだ。彼は自ら傷口を開き死に至った。そしてイゾルデもだ。そのトリスタンの亡骸の前で恍惚として歌い死んでいく。二人は死を迎えることでその愛を成就させたのであった。
その舞台を最後まで観てだ。観客達は唖然となった。
そしてだ。互いにひそひそと話し合うのだった。
「何だこの作品は」
「死を讃えている」
「二人だけの世界だ」
「しかも音楽もだ」
「何かが違う」
その死を受け入れている、厭世的な作風と無限に螺旋状に続く夜の世界の音楽にだ。彼等は戸惑いを覚えた。そうして話すのだった。
「この作品は何だ」
「何だというのだ」
「こんな作品ははじめてだ」
「話の原題はわかるが」
アーサー王の話に出て来る騎士の一人、それがトリスタンであるのだ。その彼とイゾルデの愛の話、アーサー王の話の外伝的な話である。
それはわかる。しかしなのだった。
「ここまで死を賞賛した作品はない」
「夜を讃えている」
「死と夜」
「そしてこの音楽」
興奮することの非常に少ない、二人の為だけにあるかの如き音楽もだった。彼等をして戸惑わせるに充分なものだったのである。
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