153部分:第十話 心の波その十一
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第十話 心の波その十一
「そして至高の位にあるのですから」
「そうしたことはわかっていますが」
「ならばそれを嫌と思わないことです」
「見られることをですか」
「そうです。わかりましたね」
「そういうものですか」
王は納得しない顔で母の言葉を受けた。彼は今だ。周囲の視線を嫌になる程感じていた。そして感じ取っているのは視線だけではなかった。
何時しかだ。歌劇場の中の声まで聴いていたのだった。聴こえてきたのだ。
「必ず来られると思っていたけれど」
「ワーグナーの作品だからな」
「あの山師の」
「弟子の妻に手を出す様な」
「そういえば」
そのワーグナーの話がだ。さらにされる。王に聴こえる様には言っていない。しかしその言葉自体がだ。王の耳に入ってしまっていた。
王はそのことには不快さを感じていた。顔にもそれが出ていた。しかしそれに気付く者はここではおらず。歌劇場での言葉が続く。
「イゾルデですが」
「これからはじまる舞台のヒロインですか」
「アイルランドの姫だとか」
「魔術も使える」
「その娘ですね」
こう話していく。王が聴いているとは考えず。
「あのイゾルデという名前」
「そうですな。ハンス=フォン=ビューローの娘」
「あそこにいるあの男の」
「師に妻を奪われた男の」
既に指揮者の席のところで立っているビューローも見られた。彼ははっきりと聴いていた。そのことにあえて表情を見せないでいる。
だが彼も耐えていた。顔には出さないがだ。そうしていたのだ。
その彼のこともだ。話されていくのだった。
「あの男の娘の名前ですな」
「しかし実は」
「その父親はワーグナーですな」
「それは間違いないですね」
「確実に」
このスキャンダルがだ。歌劇場の中でも囁かれる。それは何故か。ワーグナーのオペラの初演が行われるからに他ならない。
それだからだ。彼等はひそひそと話すのだった。
「その不義により生まれた娘がヒロインですか」
「実にワーグナーらしい」
「全くですな」
「全く以て厚顔無恥な」
「それにも程があります」
確かにだ。ワーグナーにはそうしたところが多分にある。それが話されていた。
「陛下に取り入り贅を極め」
「国の財政を湯水の様に使い」
「そうして今度は自分の作品の為の歌劇場まで作るとか」
「それもまたバイエルンの財政で」
「何処まで図々しいのか」
こうだ。話されていく。それを全て聴いてだ。
王はだ。うんざりとした顔になって述べるのだった。
「醜いものです」
「醜いというのですか」
「はい、醜いです」
こう話すのだった。王はだ。
「人のそうした噂話など」
「噂を気にするのですか」
「気にはしません」
それはだと母に答える。しかしだ
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