第三章
[8]前話
「今も大事にしてくれているから」
「それで、ですか」
「お義父様にですね」
「そのメダルを差し上げますね」
「そうするよ、お義父さんがいてくれたから今の私があるから」
こう言ってだ、実際にだった。
リリィは祖国に帰り今も自身の家である屋敷に帰ると自分を引き取ってくれた時と比べてすっかり年老いてしまっている義父に金メダルを差し出して言った。
「もう聞いてるよね」
「テレビで観ていたよ」
言ったその時をとだ、義父は娘に笑顔で答えた。
「よくね」
「うん、じゃあね」
「それならね」
「そのメダルはいいよ」
義父は娘に笑顔のまま言葉を返した。
「それはリリィが持っていなさい」
「どうしてなの?」
「わしにくれると言ったその気持ちで充分だよ」
これが義父の返事だった。
「それだけでね」
「そうなの」
「ああ、わしに感謝してくれている」
「その気持ちがなんだ」
「嬉しいからね、それにリリィはわしの言ったことを聞いてくれて」
それでとも話すのだった。
「我儘や短気なところをなおしてくれているから」
「まだそんなところあって猫舌だけれどね」
「猫舌はそのままでいいしこれからもなおしていけばいいさ」
その我儘や短気さはというのだ。
「これからも」
「そうなんだ」
「そう、そしてね」
「お義父さんに感謝してくれているから」
「それだけで充分だよ、だからメダルは」
「私が持っていていいの」
「そう、持っておきなさい」
自分はリリィの気持ちを受け取った、それで充分だというのだ。
「いいね」
「わかったわ、じゃあそうするわね」
「そうな」
「けれど気持ちだけでいいなんて」
「そのことはわからないか。けれど」
「けれど?」
「リリィも何時かわかる日が来る」
自分が今そうしたことがとだ、義父は言うのだった。
「その時になればね」
「そうなの」
「ああ、その日が来ることを待っておきなさい」
義父はリリィに優しい笑顔で話した、そうして娘が手に入れたメダルをそのまま娘のものにさせた。
リリィは結婚して子供が出来た、その頃には義父は世を去っていた。しかし子供が出来てからだった。子供にプレゼントを出された時に義父がメダルをいいと言ったことの意味がわかった。これ以上はないまでに優しい暖かさを感じながら。
猫舌娘 完
2018・9・25
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