フェアラートの名
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。
彼女が代表を務めるフェアリーは、同盟でも有数の企業だ。
彼女が一声だすだけで、多くの人間の人生が変化するだろう。
その中でアロンソを企業の役員にすることなどたわいもない。
最も結婚した当初は、不可能であった。
彼女はまだ後継者の一人であって、当時のトップは建国から自由惑星同盟に尽くしたという血だけを重視する無能ばかりだったからだ。
アロンソとの結婚もひどい言葉で、否定されたものだ。
だが。
彼女はそれを無視して結婚し、そして――。
リアナの唇がゆっくりと笑みを作った。
「もはや無能な老人は何の力も持たない――いや、持たせません。もうあなたは危険なことをしなくてもよろしいのです」
時間にすれば、わずか十数年。
それだけの期間で、彼女は代表の地位に就いた。
当時彼女を――そして、彼を否定していた老人たちは、今では彼女の忠実な部下か、あるいはプライドを捨てられなかったものは見かけることはない。
先ほどまでの貞淑な妻といった表情は、企業の長としての顔になっている。
覗き込まれるように見られて、アロンソは苦笑する。
通常であれば恐れ、一歩引いてしまうような表情。
だが、それを知り、そんな彼女が好きで結婚したのだから。
ゆっくりと彼女を抱きとめて、アロンソはしかし否定を言葉にした。
「心配をかけて申し訳ない。だが、私にはこの生き方しかできない」
「どうしても、だめなのですか?」
誰にも見せないであろう、懇願するような声。
アロンソは言葉にはせずに、ただ黙ってうなずいた。
リアナが離れ、小さく息を吐いた。
「相変わらず頑固ですね。わかっていたことですけれど――ですが、気持ちがかわったら、すぐに教えてください」
つまらなそうに、しかし、少し嬉しそうにリアナは口にした。
彼女もまたアロンソと同様に、夫のことを理解していた。
そんな愚直な男は――今まで彼女の傍にはおらず、だからこそ好きだったから。
それ以上は深く口にせず。
「ですが、珍しいですわね。お酒を召し上がりますのは」
「そうか」
「ええ。とても……。聞けば、危険だったようですわね」
口にした言葉は、おそらくは一般人も知らぬことを知っているかのよう。
当然であろう。
大企業の代表ともなれば、政治家や高官との付き合いも多い。
おそらくは彼女の耳にも詳細な状況は入っているのであろうが。
アロンソはそれを口にすることはないし、リアナも深く聞くことはない。
「まあな。だが、そこに面白い若者を見た」
「あなたがお褒めになるのは珍しいことですわね」
「かもしれないな。久しぶりに、私も熱くさせられた」
ゆっくりと手を広げ、見たのは自分の手だ。
す
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