148部分:第十話 心の波その六
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第十話 心の波その六
「ですがそれだけではなくです」
「陛下も」
「陛下は鋭い方です」
それはもうわかっていることだった。
「ですがその陛下の為にです」
「ここは何としてもですね」
「その通りです。その御心を安んじなければなりません」
首相もだ。彼なりの忠誠心を持ってだ。そうして動いているのだった。
そのうえでだ。彼は王について言う。
「陛下は気付かれれば対処されます」
「それをどうするか」
「陛下に気付かれぬように宮中に手を打ちます」
そうなるとだ。手はそれだった。
「ですから」
「男爵にお話してですね」
「そうです。あの方がおられます」
彼等のもう一人の有力な同志だ。彼等にとっての同志、ワーグナーにとっての敵は多かった。宮中にもだ。それは多くいるのである。
「ですからそのうえで」
「わかりました。ではその手は」
「何、簡単です」
首相の顔が微笑になった。
「ワーグナー氏は陛下のところに参上しますね」
「はい、最近数は減りましたが」
かつては毎日の如くだった。だがそれが減ってきているのだ。疎遠になってはいないがだ。手紙でのやり取りが増えてきているのだ。
二人のやり取りは手紙の、ロマン主義的な文体によるそれになっていた。そのやり取りをだ。二人は今は楽しんでいるのである。
だがワーグナーが宮中に出入りしているのは確かだった。それでなのだった。
「必ず参上しますので」
「そこをですね」
「少し仕掛ければいいだけです」
首相は言った。
「それだけです」
「ではここは」
「はい、男爵もお招きして」
こうしてだった。彼等は罠を張ることにした。無論王に気付かれずにだ。
王もだ。宮中においてだ。
その日が迫っているのをだ。今待っているのだった。
「間も無くだな」
「はい、間も無くですね」
「明日になりました」
「待ち遠しい」
王の座においてだ。こう呟くのだった。
「今か今かとな」
「そこまでなのですか」
「楽しみにされていますか」
「期待だ」
それだという王だった。
「私は今期待しているのだ」
「だからですか」
「今はそうしてなのですね」
「待たれているのですね」
「待っている」
実際にそうだとも答える。
「だがそれ以上に期待しているのだ」
まるで少年の様にだ。王は目を輝かせている。
そしてその目でだ。王はさらに言った。
「今夜は眠れないだろう」
「ではワインをお持ちしましょうか」
「それを」
「それでも眠れるかどうかだな」
王は酒でもだ。そうなれるとは思っていなかった。
「今日は」
「左様ですか。そこまでなのですか」
「期待されてですか」
「陛下は」
「そういうことだ。明日になるのが待ち遠
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