魔王
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を、彼の後ろをついて歩いた。
その先には、玉座に腰かけた、魔王の姿があった。
傍らには、側近と思しき人間が、右に2人、左に1人立って、こちらをじっと睨んでいた。
魔王自身も、おそらく兄より大柄であったが、そのすぐ右隣に立っている鎧の男は、さらに大きかった。
側近たちの視線も鋭かったが、それ以上に、魔王の放っている威圧感が、私の心を締め付けていた。
案内の彼が跪くのを見て、慌てて私もそれに倣う。
「ただいま戻りました」
震える私とは対照的に、彼は落ち着いた声で言った。
「ご苦労だった。面を上げよ」
彼と魔王のやり取りなど、まるで頭に入ってこない。
早く休みたい。ベッドで横になりたい。
強く、そう思った。
「聞こえているのか。貴様もだ、顔を見せよ!」
「!?」
自分に言われているのだと気づいて、慌てて顔を上げる。
魔王がこちらを睨んでいた。
冷汗が止まらない。とても、まっすぐ視線を合わせられない。
「チェントと言ったな」
「は、はい……」
震えた声で答える。
「始めに言っておく。貴様の父、スーディは裏切り者として裁く必要があったが、娘の貴様にまで、罪を問うつもりはない」
魔王は、そう前置きした。
「だが、この魔王領に住む以上は、この国に貢献してもらう。それが私の血族であってもだ。ネモよ」
「はっ」
跪いていた彼が答えた。
「その娘は、貴様に任せる。戦場に立てるよう、戦士として鍛えてみせよ」
「承知いたしました」
そのやり取りは、私を戸惑わせるばかりだった。
「どうした、チェント? 自分が、戦場になど立てるわけがないと言いたげな顔だな」
魔王の言う、まさに通りだった。
自分は兄とは違う。剣を持っても、あんな風に戦えるわけがない。
「なら、貴様は何ができるのだ? 何か特技があるのなら、聞いてやろう」
そんなものあるわけがない。
兄のように戦うでもなく、自分で仕事を探すでもなく、ただ生きてきただけの私には、本当に何もなかった。
何も言えずに黙っていると、魔王が口を開いた。
「その男、ネモはな。他人の能力を見極めて伸ばすことにかけては、領内でも、突出しておる。事前に資質を見るという意味も含めて、貴様を迎えにやらせたのだ」
私の能力……? そんなものがあるだろうか?
「ネモに師事して、何の成果も上がらない時には、貴様の処遇も再検討してやろう」
これ以上話すことはない、と魔王は言葉を切った。
「てば、失礼いたします。行くぞ」
彼──ネモは、立ち上がって一礼すると、出口に向かって歩き出した。
私は、戸惑いながら、慌てて彼の背を追った。
「ここがお前の部屋になる」
謁見の間を出て、案内された先は、城の一室だった。
「明日から訓練を始める
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