142部分:第九話 悲しい者の国その十五
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第九話 悲しい者の国その十五
「そういうことなのですか」
「それで彼等もまた」
「同じなのですか」
「そうだ。違う世界、違う国にいようとも彼等は同じ存在なのだ」
それでだというのである。
「同じ人格であり同じことを為す。だからだ」
「だからこそ彼等はワーグナー氏にヘルデンテノールとされた」
「それだからですか」
「同じ存在故に」
「そういうことですか」
「そうだ、だからだ」
また言う王だった。
「それでだ」
「では。彼等は」
青年達はさらに深く話していく。
「同じものを求めているのですね」
「異なる場所と国にいながらも」
「そうなのですね」
「そうだ、それは愛だ」
王は一言で言った。
「愛を求めているのだ」
「では陛下もですね」
「愛を求められているのですね」
「それを」
「そうなるな。私が求めるのはそれだ」
王自身もそれを認めた。
「愛なのだ」
「女性ではないのでしょうか」
青年の一人が怪訝な顔になって王にこのことを問うた。
「それは」
「異性か」
その言葉を聞くとだ。王の顔が急に曇った。そうしてそのうえでこう言うのだった。
「私は以前からだ」
「女性はですか」
「駄目だというのですね」
「そうだ。自分でも何故かわからない」
その曇った顔で話していく。
「何か。自分と同じものを見ているような気がするのだ」
「陛下御自身とですか」
「女性にですか」
「本当に何故かわからない」
王はまたこの言葉を出した。
「しかし。それでもだ」
「しかし陛下は王です」
「それならばです」
「何時かは」
「それもわかっている」
やはりであった。その表情は曇ったままである。ワーグナーについて、芸術について語る時とは違いだ。王は今はその表情だった。
「私は王だ。王ならばだ」
「はい、必ずです」
「生涯の伴侶を得なければなりません」
「そして」
「想像もできない」
また言う王だった。
「私が子をもうけるのだな」
「はい、そうです」
「王ならば必ずです」
「それは」
青年達もそれはわかっていた。王ならばそれは当然だというのだ。王としての第一の務めと言っていい。伴侶を得て子を得ることはだ。
だが、なのだった。王はそれに対してなのだった。
「駄目だ、どうしても」
「伴侶を得られることは」
「それはですか」
「そうだ。どうしてもだ」
王の言葉もまた曇ってきていた。
「私の女性の好みはだ」
「それはおありですか」
「女性についての関心はなのですね」
「陛下にも」
「彫刻だ」
王は一言で述べた。
「彫刻の如き女性がいいのだ」
「彫刻!?」
「彫刻なのですか」
「陛下の女性の嗜好は」
「それですか」
「そうだ
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