142部分:第九話 悲しい者の国その十五
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、彫刻なのだ」
また言う王であった。
「私は彫刻の如き女性で充分だ」
「彫刻は動きません」
青年の一人が述べた。
「そして笑いません」
「そうです、感情もありません」
「ただそこにいるだけです」
「美しくともそれでもです」
「全く何の動きもありませんが」
「それでいいのだ」
しかしであった。王はそれでいいというのである。素っ気無い口調で述べていた。
「それでな」
「ううむ、それはまた」
「そうした方がですか」
「陛下は望まれるのですか」
「それだけでいい」
王は顔を伏せさせた。僅かではあるが。
「私は。女性は」
「左様ですか」
「それは」
「生まれた時から。女性に想うことはなかった」
それは今もだというのである。
「だからだ。このままでいいのだ」
「左様ですか」
「そう仰いますか」
「そうだ。だが芸術は違う」
顔を正面に戻す。そしてそのリハーサルが行われている舞台を観る。今は森の中だ。そこでトリスタン役の歌手とイゾルデ役の歌手が歌っている。
それを観ながらだ。王は今は熱さが戻った声で語った。
「彫刻であってはならないのだ」
芸術はそうだというのである。そう言いながらであった。王は舞台を観ていた。それは女性を観る目であった。本来はそうなるべき目であった。
第九話 完
2011・1・27
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