第一章
[2]次話
アラサー女の家族
和泉瑞樹は美容師である、その腕は見事で外見も中性的に整っているが彼女の家族構成や日常については誰も知らなかった。
それで後輩達はよく彼女のことを話していた。
「和泉さんってどう暮らしているのかしら」
「わからないわよね」
「一人暮らしだっていうけれど」
「何処に暮らしているのか」
「それでどういった生活をしてるのか」
「全然わからないのよね」
「そうなのよね」
こう話していた、とかくだ。
瑞樹のプライベートは謎に包まれていた、仕事はそつなくこなすが店員達とも客達とも深い交流はなく仕事が終わるとすぐに家に帰り自分からプライベートのことは話さずそして聞かれても当たり障りのない素っ気ない返事ばかりでプライベートの実態がわかることは一切なかった。
それでだ、誰もが彼女のプライベートについてはどういったものか知らずそれで興味を持っていた。だが。
他人のプライベートを検索することを好まない店長が店員達に言うのだった。
「個人情報についてはね」
「聞かないこと」
「それがエチケットですね」
「ネットでも個人情報をやけに聞く人はね」
そうした者についても話すのだった。
「まともな人じゃないから」
「他の人の個人情報を手に入れてどうするか」
「そう考えるとですね」
「まともな人とは思えないですね」
「何かあると思った方がいいですね」
「そうよ、そうした人と同じだから」
ネット上でいる如何にも怪しい人物と、というのだ。
「だからそうしたことはしないことよ」
「そうですか」
「それじゃあですね」
「この話はこれで終わりね」
こう言って店員達の話を止めた、そしてそのうえで自分も瑞樹のプライベートのことを聞くことはなかった。
瑞樹は出勤して退勤するまで真面目に働くのが常で仕事ぶりもサバサバしている、だが彼女のプライベートを知っているのは他ならぬ自分自身だ。
それでだ、瑞樹は自分の部屋に帰ってだった。
まずは拾った猫に餌と水をやった、そうしてトイレのチェックもして砂を捨てて新たに補充した。ペットを飼ってもいいアパートなのでこのことはよしとした。
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