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3章 穏やかな日々
23話 将来の旦那さん?Part3
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人殺して楽しかっただとか、殺すつもりはなかっただとか、少しは弁解してみろよ!言い訳してみろよ!」

「…じゃあ、君はそういう言葉が欲しいの?」
「っ…そういうことじゃ、ないっ、けどっ…!」

 ミカは妙にむしゃくしゃした。こうして自分がいくら思いをぶつけ、叫んでも相手の心にはまったく届いていない状況が、どうにも腹が立って、悲しかった。こんな無感情なやつに殺された父親のことを思うと悔しかった。

「…そうだよ、その時は無性に楽しかった」
「っ!?」

 唐突に言われたリアの言葉に、ミカは小さく息をのんだ。

「始めは、ツカサ君が傷つけられて、それに対して自分でも制御できないほどの怒りに駆られて、ツカサ君を傷つけた男を殺した。でもね、“久々”に人を殺すことが無性に楽しくて快感だった。ガラスが割れるような音、人を切り裂く感触、舞い散るポリゴンの花弁…。気がついたら、理性が吹っ飛んでた…」

 徐々に光を失っていく瞳を間近に見て、ミカは背中の産毛が逆立つような感覚を憶える。得体のしれないものに対する恐怖で喉が張り付き、結局口から出た言葉は、

「ば、化け物だ…!」

 とっさに漏らしてしまったミカは、瞬間的に殺される、と思った。まだデュエルの制限時間が残っているので、リアがミカを殺すのは非情に容易なことだと思う。彼女なら一切の感情なく自分を殺せるだろう。
 
 だが、ミカの予想を大きく裏切って、リアの口角は徐々に上がり、弧を描いた。

「大当たり」

 真っすぐミカの瞳を見つめ、リアはそう言った。リアの笑みはミカが今まで見てきた女性の誰よりも冷たく、そして美しく、まさに冷艶で、魂を抜かれてしまう気がした。

 リアはすっと立ち上がると、扉のほうに歩いていく。体が解放されたミカだったが、指一本動かせないでいた。

 扉の外には誰かがいたようで、少しの間その人物と話していたが、やがてその人物だけが部屋の中に入り、リアは出て行ったようだった。

「ミカ…大丈夫か?」


 床に倒れたままのミカのすぐ脇に屈みこむ一人の人間。逆光であまりよく顔が見えなかったが、はらりと頬に垂れるその黒髪は、忘れようもなかった。

「ツカサ…っ!え、と、これは…」

 
 どうしたらよいかわからなくなり、ミカは途端におどおどし始めた。だが、ツカサは特に何の表情も変えなかった。ただ一言、

「リアのこと、許してやってほしい…」
「…え?」

 静かだが、確かに重みのある声で言った。ミカはツカサの唐突の言葉がよく理解できず、呆然として目をしばたたかせる。

「リアが、君の父親を殺したこと」
「あぁ…」 

 やっと合点が行き、ミカは息を吐いた。

「…確かに、憎いよ、あの女のこと」
「っ…」 

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