140部分:第九話 悲しい者の国その十三
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第九話 悲しい者の国その十三
「あの二人とこの音楽ならばだ」
「舞台は成功しますね」
「陛下はそう」
「確信している」
実際にそうだというのである。
「あの夫君は以前ローエングリンも歌っていたな」
「はい、そうです」
「その通りです」
青年達はすぐに王に答えた。
「その歌も見事だったそうです」
「ワーグナー氏が認められる程でした」
「ローエングリンとトリスタンは同じテノールだ」
それは言うまでもなかった。
「しかしだ」
「しかしですか」
「違うところがあるのですね」
「トリスタンの声域はローエングリンのそれより低い」
テノールと一口に言ってもその声域の広さがあるのだ。そういうことなのだ。
「それが問題だが」
「しかし彼はそれを見事に克服しています」
「あれならば」
「陛下の仰る通り」
「そうだ。ローエングリンもだな」
ここでだ。王の言葉に熱が宿った。
「歌えるとなると」
「聴かれますか、機会があれば」
「そうされるのですね」
「楽しみにしている」
まさにその通りだというのであった。
「トリスタンもいいが。ローエングリンはやはり」
「違いますか」
「あの作品は」
「ローエングリンはどれだけ観ても聴いても飽きることはない」
これが王の言葉である。
「何度もな」
「左様ですか、ローエングリンはですか」
「陛下はそこまで」
「彼のローエングリンも聴きたい」
王の言葉は続く。
「必ずな」
「では。機会があればそうしましょう」
「彼のローエングリンもまた」
「このミュンヘンで」
「この街はもう一つの音楽の都となる」
ウィーンを意識しての言葉だった。
「必ずな」
「ワーグナー氏の音楽によってですね」
「それはなるのですね」
「ウィーンはモーツァルトによってそうなった」
完全にそうなったのは彼によるところが大きい。それ以前もウィーンは音楽の都だった。だがそれはモーツァルトという天才により完全に確立されたのである。
「そしてミュンヘンはだ」
「ワーグナー氏によって」
「そうなりますか」
「その中心にあるのがローエングリンなのだ」
ここでもこの騎士であった。
「あの騎士が。その中心なのだ」
「白銀の騎士の都ですか」
一人が言った。
「このミュンヘンは」
「そうだ、モンサルヴァートだ」
王は騎士がいた聖杯の城の名前も出した。
「あの城になるのだ」
「では陛下はローエングリンであられますね」
「そしてそれと共に」
「そうだな。パルジファルでもある」
王は半ば恍惚として応える。
「そうなるな」
「そうですね。ですが陛下は」
「他にもですね」
「そうだ。タンホイザーでもあるのだ」
この主人公でもあるというのだ
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