139部分:第九話 悲しい者の国その十二
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第九話 悲しい者の国その十二
「あの方がエルザであるとは」
「むしろローエングリンと思われています」
「あの白銀の騎士ですね」
「あの方にとってあの騎士は絶対の存在なのです」
どうした意味で絶対であるのかも問題だというのである。
「私は。あの方にそれ程までのものを提供してしまったのですね」
「してしまったですか」
「それは」
「いいことか悪いことか」
ワーグナーのその表情が変わった。悩むものに。
「それは私にもわかりません」
「貴方にもですか」
「あの作品を作り上げた貴方にもそれは」
「わからないのですか」
「残念ですが」
その悩む顔で述べるのだった。
「それは」
「ですがあの方はあの作品を心から愛されています」
「そして貴方自身も」
「それは間違いありませんね」
「そうですね。それは確かに」
このことはよくわかった。他ならぬワーグナーは。
「それがいい結果になることを願います」
「あの方にとってですね」
「貴方の言われるエルザ姫に」
「そうなることを」
「エルザは最後は。ローエングリンの名前を問うてしまいました」
ローエングリンでは彼の名前を問うてはならないとされていた。しかしエルザは彼のその名を問うてしまったのだ。それによりエルザはローエングリンと離れざるを得なくなったのである。
「そしてそれによりです」
「悲しみのあまり息絶えてしまった」
「あの結末ですね」
「陛下も。まさか」
「そのことも否定できないのです」
ワーグナーの顔がまた変わった。今度は悲しいものだった。
「あの方の御心を考えますと」
「ローエングリンあってのエルザ」
「だからこそなのですね」
「あの方がどうなるか」
「それが」
「はい、ですから願います」
もっと言えばだ。祈っていた。
「あの方の幸福を」
「私達もです」
友人達もそれは同じだというのだ。
「そして貴方の幸福も」
「それもです」
「有り難うございます」
ワーグナーは苦しい中で己のことを考えていた。しかしそれと共にだ。王のこと、何よりもオペラのことを考えていたのだった。
そしてだ。その彼に心配されている王はだ。舞台のリハーサルを観ながら。周りの美しい青年達にこんなことを話していた。
「素晴しい舞台になる」
「このままいけばですか」
「そうなると」
「そうだ。音楽もいい」
ビューローの指揮にだ。彼は今の時点で満足していた。
「そしてだ」
「そしてですね」
「歌手もですね」
「そうだ、歌手もいい」
そのタイトルロールの二人も観た。一人は大柄な髭の巨漢、もう一人は彼より年長と思われる痩せた女性だ。その二人であった。
「カルロスフェルト夫妻もな」
「ワーグナー氏が選ばれたお二人です」
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