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永遠の謎
138部分:第九話 悲しい者の国その十一
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第九話 悲しい者の国その十一

「伴侶を得られない」
「そうなってしまうのでは」
「それでは」
 どうなるか。危惧が芽生えていた。
「陛下の後継者はオットー様になられますね」
「陛下の弟君のあの方」
「あの方ですが」
「しかしあの方はどうも」
 その王弟についてだ。王に対するのとはまた違った危惧が語られていく。それが何かというとだ。バイエルンにとってかなり憂慮すべきことだった。
「近頃言動や発言が妙ですが」
「そうです、その噂が出ています」
「これはまことでしょうか」
「奇矯な振る舞いが多いといいますが」
「あれは」
「噂に過ぎません」
 ワーグナーがそれを噂とした。
「噂というものはおおむねにおいてその根拠が曖昧なものです」
「だから気にすることはない」
「そうだというのですね」
「はい、その通りです」
 彼自身今その噂、彼の場合は実は真実が殆どであるがそれに攻撃され悩まされているからこそ。彼は今はこう言うのであった。
「ですから。そうした噂はです」
「信じない」
「そうすればいいのですね」
「今は」
「はい、そうです」
 こう話すワーグナーだった。
「ですがそれでもです」
「それでも」
「それでもとは」
「やはり。陛下は王に相応しい方です」
 王弟は批判しない。しかし王は褒めるのだった。
「あれ程まで相応しい方はそうはおられません」
「まさに王となるべくしてこの世に現れた方」
「ハインリヒ王ですね」
「あの方はハインリヒ王にもよくなられます」
 この王もまたローエングリンの登場人物だ。王は自分と同じ王であるこの人物にも感情移入してその姿になることもあるのだ。王はローエングリンだけでなくこの王にも感情移入をしていたのだ。
「まさに生まれついての王なのです」
「その方がエルザ姫ですか」
「貴方にとっての」
「エリザベートでもあるでしょう」
 タンホイザーのヒロインだ。清らかな乙女である。
「あの方は」
「そしてエヴァでもある」
「そうですね」
 今度はワーグナーが今作曲しているオペラのヒロインだ。この娘はごく普通の町の娘だ。ワーグナーの作品にしては珍しく。
「御心が女性ならば」
「そうですね」
「はい、ですがブリュンヒルテではありません」
 指輪のヒロインだ。ワルキューレ、即ち戦う乙女である。
「決してです」
「あの方は戦いは好まれません」
「血は」
「そうしたものは」
「だからこそブリュンヒルテではありません」
 また言う王だった。
「あくまで。エルザなのです」
「清らかな乙女ですね」
「ローエングリンを憧れ慕う」
「そうした方なのですね」
「あの方がそうであるということは」
 ワーグナーはまた悲しい声で言った。
「あの方です
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